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人的資源管理分野のキーワードを詳細解説!【技術士のHOTワードWeb 第11回】
「総合技術監理部門」の合格につながる
2025.04.09
第11回
子ども・子育て支援法、アンコンシャス・バイアス、ポジティブアクション、LGBTQ
技術士における21の技術部門のなかで、一線を画すカテゴリーである総合技術監理部門。時々刻々と変化する最新テクノロジーの知識を吸収する専門性だけでなく、さまざまな分野を総合的に判断できるマネジメント能力も求められる。まさに、スキルアップのために取得する部門だ。
本連載は、総合技術監理部門の試験に必要な「キーワード集」(文部科学省が公表)のなかから、HOTなキーワードを徹底解説するものである。今回は、人的資源管理分野から4つのキーワードを取り上げる。
(1)子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は2015年4月1日に施行された法律で「子ども及び子どもを養育している者に必要な支援を行い、もって一人一人の子どもが健やかに成長し、及び子どもを持つことを希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的」としている。この目的を達成するために、市町村など、事業主や国民の責務などを定めている。
その基本理念のひとつは「子ども・子育て支援は、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、家庭、学校、地域、職域その他の社会のあらゆる分野における全構成員が、各々の役割を果たすとともに、相互に協力して行わなければならない」としている。
①子ども・子育て支援の具体策
子ども・子育て支援の具体的な施策を以下に示す。
・家庭や地域における子育て支援を充実させること
・仕事と子育ての両立を支援すること
・質の高い保育を提供すること
②子ども・子育て支援の主な内容
子ども・子育て支援の主な内容を以下に示す。
・子ども・子育て支援事業の実施
・子ども・子育て支援交付金の交付
・子ども・子育て会議の設置
子ども・子育て支援法は、総監キーワード集2025で、大項目「労働関係法」に新たに追加されたキーワードである。
(2)アンコンシャス・バイアス
アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)は、総監キーワード集2025の大項目「ダイバーシティ・マネジメント」に新規に追加されたキーワードであり、私たちが自分で気づいていないものの見方や考え方のゆがみ、つまりは「無意識の偏見」のことである。
①アンコンシャス・バイアスの原因
アンコンシャス・バイアスの原因として、以下の3つが考えられる。
・過去の経験や情報からつくられた自動的な思考パターンによる偏見
・社会全体に広まっている固定観念や偏見による、特定のグループへの偏見
・私たちの脳が膨大な情報のなかから迅速に判断するためのパターン(ショートカット)による偏見
②アンコンシャス・バイアスの種類
アンコンシャス・バイアスの種類を表1に示す。ステレオタイプとは、特定属性を持つ人々や集団に対して、画一的で固定的なイメージを持つことである。ここで登場する「人種」という言葉は一般的に用いられているが、科学的には、人類はホモ・サピエンス(Homo sapiens、現生人類)という1つの種である。

③アンコンシャス・バイアスが問題となる理由
アンコンシャス・バイアスが問題となる理由を表2に示す。

④アンコンシャス・バイアスの対処法
アンコンシャス・バイアスの対処法を表3に示す。

アンコンシャス・バイアスは、誰もが持っている可能性がある無意識の心のクセである。これを克服して、さまざまな違いを持つ人々が共存し、互いを尊重する。その能力を最大限に生かせる職場や社会を実現するためには、ダイバーシティ・マネジメント(多様性尊重の戦略、取り組み)が重要である。それを実現した組織や社会をインクルージョン(inclusion、包摂、包括)の状態という。
(3)ポジティブアクション
ポジティブアクション(positive action)とは、雇用や教育などにおいて、特定の属性を持つ人々(例えば、女性や少数民族、障がい者など)が過去の差別や偏見によって不利な状況に置かれている場合、その状況を改善するために「積極的な措置を講じること」を指す。米国では「affirmative action」という。ポジティブアクションは総監キーワード集2024から登場したキーワードである。
①ポジティブアクションの目的
ポジティブアクションは表4の目的で推進されている。

②ポジティブアクションの具体例
採用、職場環境や教育環境におけるポジティブアクション推進の具体例を表5に示す。

③ポジティブアクションの注意点
ポジティブアクションの推進における注意点を表6に示す。

④ポジティブアクションへの意見
ポジティブアクションの推進には賛成派、反対派、そのどちらでもない人々がいる。表7に両派の代表的な意見を示す。

⑤男女均等取り扱いについてのポジティブアクション
厚生労働省はシンボルマーク「きらら」(図1)の下、「実質的な男女均等取り扱いを実現するためにはポジティブアクションの取り組みが必要である。また、ポジティブアクションには個々の労働者の能力発揮を促進するだけでなく、企業にも多様なメリットがある。職場における男女格差の実態を把握し、女性の活躍推進や格差解消に向けてポジティブアクションの取り組みを進めてまいりたい」(厚生労働省)としている。
固定的な男女の役割分担意識や過去の経験から「営業職に女性はほとんどいない」「課長以上の管理職は男性が大半を占めている」などの差が男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消しようと個々の企業が行う自主的で、積極的な取り組みが必要である。
ポジティブアクションは社会の多様性を尊重し、すべての人々が公平な機会を得られるようにするための重要な取り組みであるが、その実施には多様な課題や注意点があることも事実である。
ポジティブアクションの推進については社会の一人ひとりの理解と協力が不可欠である。

(4)LGBTQ
LGBTQとは性的マイノリティ(性的少数者)の多様なあり方を表す言葉の総称で、近年、さまざまな性のあり方を包括的に表す言葉として「LGBTQ+」や「LGBTQIA+」などが使われることもある。
LGBTは初発の総監キーワード集2019から登場し、同2021からはLGBTQに変更されている。それぞれの文字が意味する内容を以下に示す。
・L:Lesbian(レズビアン)女性同性愛者
・G:Gay(ゲイ)男性同性愛者
・B:Bisexual(バイセクシャル)両性愛者
・T:Transgender(トランスジェンダー)出生時に割りあてられた性別と性自認が異なる者
・Q:Queer(クィア)性的マイノリティの総称。または既存の性別規範にあてはまらない者
・I:Intersex(インターセックス)男女両方の性器や性染色体を持つ者
・A:Asexual(アセクシャル)他者に性的魅力を感じない者
また、性的マイノリティについての包括的な概念を表す言葉としてSOGIやSOGIEが使われている。SOGIおよびSOGIEは「好きになる性:性的指向(Sexual Orientation)」「こころの性:性自認(Gender Identity)」「表現する性:性表現(Gender Expression)」というセクシャリティの要素の頭文字を組み合わせた表現である。
「LGBT」は、多くの場合、L、G、B、Tの4つだけでなく、そのほかのセクシャリティも含めたセクシャリティマイノリティ全体を指す意味で用いられている。
①LGBTQ+の割合
2016年に全国の20~50代の8万9366人を対象に行った調査では、LGBTQ+の割合は約8%という結果となった。その内訳を表8に示す。

②性的マイノリティへの国政の取り組み例
厚生労働省の性的マイノリティへの理解増進に向けた主な取り組みとして、職場での労働者や事業主への普及啓発、職場でのトラブルが生じた場合における総合労働相談コーナーの設置、生きづらさを感じている者への生活上の悩みも含めた電話相談窓口の設置などが挙げられる。
そのほか医療保険制度において、性同一性障害を有する者について保険者の判断により被保険者証の性別や氏名の表記方法を工夫して差し支えないことを示しているほか、性別適合手術について保険適用としている。
また、採用のときに公正な選考が行われるように、LGBTなどの性的マイノリティの特定の者を排除しない旨を記載した事業主向けの啓発パンフレットを作成し、事業主への周知を行っている。
文部科学省は2015年に全国の小中高校などに「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」という通知を送り、以降も教職員の質問に答える形のパンフレットなどを作成している。前述のLGBTQ+の割合調査に10代は含まれないが、同じ割合と仮定すると40人学級に3人のLGBTQ+の児童生徒がいることになる。学校では服装(制服など)、更衣室、トイレ、体育のメニューなどでの対応例がある。
③企業の取り組み例
企業で取り組まれている事例を以下に示す。
・社員のLGBTQへの意識改革
・結婚や育児休暇などのLGBTQ対応人事制度
・LGBTQへのハラスメント対策
・生命保険会社では受け取り人に同姓カップルのパートナーを条件つきで指定できる対応
・携帯電話会社の同姓カップルのパートナーを家族割りにする対応
・クレジットカードやマイレージカードの家族用カードを条件つきで発行する対応
④組織の多様性推進取り組むの評価指標例
PRIDE指標事務局(一般社団法人work with Pride)は組織の多様性推進取り組みの評価指標「PRIDE指標2025」(表9)による評価を希望する組織を募集している。
LGBTQの人々は社会のなかで多様な差別、偏見に直面している。例えば、職場や学校での差別、家族や友人からの理解不足、法律上の権利の不平等などが挙げられる。これらの課題を解決するためにLGBTQの理解を深め、差別をなくすための取り組みの推進が重要である。神などのSomething Greatが人類をつくったとすれば、2つの性を含む多様な性をつくったと考えることもできるのではないだろうか。
「男は兵隊、女は銃後の良妻賢母」という時代がすぎて、1946年に発布された日本国憲法の第14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とある。その当時、多様な性の存在が認識されていれば「性別」は「多様な性」と表されていたかもしれない。
筆者の大学教授時代の教え子が、のちにLGBTQをカミングアウトしてくれた。彼らが生きづらさを感じずに幸せを満喫できる社会であることを祈り、よき理解者になれるよう努力し、応援している。誰もが自分らしく生きられる社会を目指したい。

今回は人的資源管理分野の4つのキーワードを取り上げた。企業経営におけるダイバーシティ・マネジメントについてはR06Ⅰ-1-14で出題されている。そこではセクシャリティを含む多様な人々への配慮、ダイバーシティを通じての企業価値向上や創造的人材の確保などについて幅広く問われている。
[参考]
「よくわかるLGBT 多様な「性」を理解しよう」
藤井ひろみ、株式会社PHP研究所、2017年
「超実践! 今日からできる職場の多様性活用ハンドブック」
前田京子著、株式会社日本能率協会マネジメントセンター、2024年
こども家庭庁「よくわかる「子ども・子育て支援新制度」」
厚生労働省「ポジティブ・アクション(女性社員の活躍推進)に取り組まれる企業の方へ」
厚生労働省「ポジティブ・アクション普及促進のためのシンボルマーク『きらら』」
PRIDE指標事務局(一般社団法人work with Pride)「PRIDE指標2025」
株式会社LGBT総合研究所「LGBTをはじめとするセクシャルマイノリティの意識調査を実施」
文/南野 猛(技術士:情報工学、総合技術監理)
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