Column
人に、やさしく【電気教育、言いたい放題19】
電気科教員の「はてしないグチ」
2025.08.29
第19言「心が燃えるような言葉を……」
兄の影響を受けて、次男が中学から吹奏楽部で活動している。顧問の先生(ベテランの指導者で、吹奏楽連盟の役員でもあった)の勧めもあり、高校は吹奏楽部の強豪校に進学した。
そして、高校1年の夏休みに、久しぶりに母校の中学校を訪問した。
後輩と楽しく談笑し、楽器演奏のアドバイスもしたという。恩師ともいえる顧問の先生は人事異動で転勤し、新しい顧問の先生が着任。あいさつにいったのだが、新規採用の若い先生で、以前の先生と違って自信がなさそうな指導をしていると次男の目には映ったようだ。
帰宅するなり「あの新しい先生はアカン! あのままではクラブが強くならない」と不満を口にした。
それを聞いて、筆者は烈火のごとく叱責した。
「いつから、そんなデカい態度をとるようになった。中学校で吹奏楽となったら、ほとんどの学校で初心者ばかりで活動を始めるだろう。オマエの演奏力は、だれのおかげだ? 母校の中学校が吹奏楽の伝統校であること。顧問の先生とのめぐり合わせ。先輩たちの指導のおかげだろう。違うか? ほかの中学校から『練習方法を勉強させてほしい』って合同で練習したこともあっただろう。新しい顧問の先生は、指導経験は少ないだろうが、それでも必死にもがいているんやぞ。その先生が、オマエの発言でヤル気が出ると思うか? なぜ、『陰ながら応援しています』のひと言も出んかった!」
一気呵成で口にすると、次男は神妙になってしまった。
「お父さんも大学を出て1年目のときは50分の授業の準備で必死だった。ある3年生のクラスでは授業が頼りないって、かなり騒がれたこともあった。そのときに野球部の生徒が急に立ち上がって『みんな、静かにしろや! 確かに先生(筆者)の授業は頼りないかもしれんけど、ちゃんとやってくれるかどうかはオレたちの態度ひとつやぞ!』って大きな声で言ったんや。そのひと言でシーンと静まり返って……。まだ機転を利かす余裕もなくて、そのまま授業を続けたんやけど、このままではイカンと考えて、授業が終わってから、その生徒のところに行って「ありがとう! 期待に応えられるように頑張るからな」と、お礼と誓いを言ったんや。そのひと言うが、どれほど救いになったかわからない」
ゆっくり、諭すように伝えた。そして、こう続けた。
「顧問になったバレーボール部でも、1人で指導していた時期は思うように勝てずにいたんやけど、ある人から『がんばっているから、いずれは花が咲くときが、きっとくるはず』と言われたことが、どれほど勇気づけられたことか……。この2つの貴重な経験が、いまでも心に染みついている。あのときのクラスの生徒と、クラブのメンバーに十分な指導ができなくて申し訳ない気持ちでいっぱいで、悔やんでも悔やみきれない。そういった経験があるから、現在、目の前の生徒に対して、ない知恵を絞って授業を行っている状態や」
次男は納得し、自分が発した言葉の迂闊さを悔いてくれた。
「オレは、すべてを見抜いている!」の雰囲気で他人を批判することは簡単だ。しかし、それを、すべて受け入れてくれるかどうか甚だギモンである。その人の心に火を灯すようなアドバイスは難しく、一歩でも、いや、せめて半歩でも前進できるようなアドバイスを送れるようになりたいものだ。

プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。
