Column
そこに愛はあるんか?【電気教育、言いたい放題20】
電気科教員の「はてしないグチ」
2025.10.17
第20言「スープは鶏ガラ、教師は人柄!」
かつて、学園ドラマで「教育とは愛だ!」という熱血先生のセリフがビシバシと飛び出していたが、長年、教育の現場で経験を重ねた者にとっては「どこに?」なんてギモンがグルグルと脳裏を駆けめぐってしまう。
生徒とともに教育活動をする時間は授業、ホームルーム、クラブが中心だ。生徒への働きかけで「愛情の押し売り」をするよりは、生徒が「愛情を感じられる」ような雰囲気、接し方、内容であるべきだし、仲間と良好な関係性を築き、人格形成に役立ってほしいと考える。
昭和の終わりに学校が荒れていた当時は「クラブをしないと問題行動を起こすから、クラブで生徒の面倒をみよう」がトレンドで、もちろん、筆者も積極的に生徒たちを受け入れた。
さて、現在はというと、問題行動は落ち着き、いかに新しい授業を成立させるかに重点を置いている。教育課程も石が坂道を転がるかのごとくコロコロと変更し、出前授業、金融教育、食育、防災教育、総合学習、探究学習などが新規参入してきた。
行政は教育の現場に余力を持たせないようにしているのか? 新しいテーマで成果を上げて出世を目論んでいるのか? というような思惑がひょっこりと顔を出したり、恥ずかしくて隠れたりしている。
それでは、具体的に「授業で愛を!」は可能なのだろうか?
あくまで個人的な見解だが、勉強のキホンは昔ながらの「読み、書き、ソロバン」だと思っている。特に工業の勉強においては、文明の利器を駆使して「読み、書き+キーボード入力、手計算+電卓+コンピュータ」まで発展している。
最近では教育の現場でも「ICTを活用しなさい!」と言われる。便利なツールであると認めるが、デジタル機器は視覚を強烈に刺激する。そして、必ずしも生徒の理解を深めるとは限らない。
パワーポイントで作成したカラフルな図やチャートグラフは生徒たちに強烈なインパクトを与えるが、これは教師のICTによる演出効果で、関心を引くことには成功しやすいが、より大切な思考力を高めることにはつながりにくい気がする。つまり、披露してからが勝負で、その教師の指導力、人間力が備わって、初めて「有効なツール」として成立するのではないかと考えている。
授業には教師の人間性が出る。その教師の個性によって、2つとないスタイルができるのだ。これは時代に関係なく、それぞれの人柄がジュワッと出てくるような授業が必要だろう。
「この授業は独特の味があるな」と、おでんで言うところのダシがしみ込んだダイコンのような授業が求められていると思う。
その昔、ある料理番組で「料理に愛情がなければエサと同じです」と優しい口調であっても、厳しい内容のコメントを残した料理人がいました。
料理人は、季節によって旬の食材を「どのように生かすか」が求められるという。しょうゆの濃い、薄いであったり、栄養バランスであったり、咀嚼を増やすために固形物を入れたり、さまざまなバリエーションが要求される。そして、最後は、ひとつまみの愛情が独特のスパイスに……。
それでは、授業における「ひとつまみの愛情」は何か? 教育はカリキュラムという1年周期でプログラムされた大河ドラマであり、毎回、ワンパターンとなってマンネリ化しないように教師は工夫を施す。ようするに、その工夫が「愛情」だと考えている。
「教師の人間力」を土台に、授業で生徒を成長させたい。これは筆者自身への戒めでもある。
ある年の紅白歌合戦では「歌の力」がテーマだった。「この1曲」で勇気づけられたこともあった。いろいろと手を変え、品を変え、生徒が愛情を感じられて、教師自身も「よっしゃあ~!」と心でガッツポーズができるような授業を展開していきたい。

プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。
このシリーズ
電気教育、言いたい放題← 前の記事
人に、やさしく【電気教育、言いたい放題19】
次の記事 →
なし
関連記事

License

License

Column

Special

License

Q&A

License

License
