Column
今出川 裕樹の電気、そうだったのか!!【電気教育、言いたい放題14】
電気科教員の「はてしないグチ」
2025.03.19
第14言「イェ~イ! オレが昔、工業高校のPR活動に必死だったとき……」
バレーボールの公認審判団の端くれだったこともあり、テレビでサッカーの国際審判員の研修番組を興味深くみた。
特に印象深かったのが「キミたちは、いつ審判員として派遣要請がかかるかわからない。したがって、成功するための準備は怠らないように」という講師のコメントが心にグサリと刺さった。
さて、話は変わる。工業高校のPR活動の一環で、土曜日にオープンキャンパスとして中学生や保護者を対象に実習設備を公開した。
そのとき、ある女性が電気の施設を見学しつつ、熱心に質問してきた。しっかりと対応してきたつもりだ。楽しく、有意義な時間だったなと思いつつ、帰り際に名刺を交換。そこには、近隣の某女子大の現代社会学部の教授という肩書きがあり、再エネの普及を研究していることがわかった。驚いたと同時に、その熱意に脱帽した。
それから数カ月がたったころ、その教授から「北海道が、なぜブラックアウトになったのかを踏まえ、再生可能エネルギーの現状を講義してほしい」と連絡を受けた。
「私でよろしければやりましょう」となり、1週間後、教授と5名のゼミ生が来校し、逆出前授業となった。
これまでの知識や新たに調べてわかったことをフル稼働して資料を作成。簡単な実験装置も準備した。スタートは午後5時の約束で、時間帯を考えてジュース、お茶、お菓子などを用意。これでOK! さて、どんな学生さんがいらっしゃるのかな……。正直、不安でもあった。
筆者は工業高校、工学部、工業高校の教員として現在に至っている。まさに「野郎だらけの世界」にドップリと漬かってきた。何だか調子が違うから、こっちが緊張してしまいそうだ。
そんな心境だったからか、玄関で待っているときにソワソワしていたのだろう。下校する女子生徒たちに「先生、落ち着きないなぁ~」と声をかけられた。
特別授業の話をすると、半分冗談、半分本気で「いやぁ~ん、緊張するぅ~」とぶりっ子口調でからかわれることに……。思わず爆笑。これでリラックスできた。
しばらくすると、逆出前授業のご一行がやってきた。「お菓子でもつまみながら、気楽に受講してください」と声をかけ、満を持してのスタートとなった。
主な内容として「なぜ、北海道がブラックアウトになったのか? それに伴う大停電を人災と報道する新聞の非合理性」や「太陽光発電の系統接続について、メガソーラーの現実」「再エネのために早く送電線を整備しろ! という主張に伴う送電線技術者の現実」「マンガによる原発作業者の現実」などなど、てんこ盛りの授業を展開した。
その結果、やはり「このときじゃないと電気のことは学べない」というオーラがヒシヒシと伝わってきた。「これは、どういうことですか?」と的確な質問が何度も飛んできた。
筆者はというと「おぉ~、いい質問ですね。実は、次に説明しようと思っていたんですよ」と、池上彰さんばりに真摯に受け止めつつ、「ちょっと待ってくださいね」とホワイトボードの説明を消しながら頭のなかで高速回転。少しの時間で「よし、この説明や!」と整理して、新たな板書で解説をするという流れを繰り返した。もちろん、背中は冷や汗が落ちまくりだ。
3時間強のロングレッスンだったが、みなさんの満足気な表情をみると、嬉しいというより、ホッとした。資料はもちろん、用意したお菓子も効いたのだろう。
日ごろは電験三種の指導と、筆者自身も電験二種の勉強に取り組んでいる。また、小学校、中学校、普通科の高校の先生たちとエネルギー教育の活動もして、そこで時事ネタを収集していたために何とかなったのかもしれない。
準備は大切。冒頭の講師のスピーチを痛感したできごとであった。

プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。