Interview
技術士(電気電子部門)に合格! 有薗謙太の……【栄冠への懸け橋】
突破の極意は十人十色
2024.05.14
日常からコンピテンシーを意識する「現場応用スタイル」で知識を研鑽
憧れの「技術士」に向けて、盤石の土台を築く
資格試験の学習スタイルは、受験者の数だけ存在する。参考書を片手に一からテーマの理解に励む受験者もいれば、ひたすら過去問のみを解きまくる受験者もいる。その試験に対する習熟度も一因だが、栄冠をつかむには「学習スタイルが自分にマッチしているか」が大きく影響してくる。しかし……。
自分に合った学習スタイルをみつけることは難しく、本当にフィットしているかどうかも「試してみないとわからない」という状態。受験者なら、だれもが試行錯誤した経験があるだろう。だから、合格者の学習スタイルをリサーチする。最高のゴールを導く指針として、どんなに細かいことでも試していく。合格者の体験談は、輝かしい未来を引き寄せる情報の宝庫なのだ。
そこで、無数に存在する学習スタイルのなかで、「栄冠」を導いた指針を取り上げる本企画。第1回は、技術士(電気電子部門)に合格した有薗謙太さんをフィーチャーする。
━━2023年に技術士に合格しました。ほかの資格も含めて、まずは、それまでの資格の取り組みについて教えてください。
「いまの会社(住友化学)に入社したのが2010年で、電気の仕事に就くことが決まったとき、大学では電子工学を専攻して光デバイス材料の研究をやっていたから、いわゆる「強電」の分野は勉強していませんでした。それこそモータに種類があることも詳しく知らない状況で……。しっかり、一から体系的に学ぶには電験三種がいいと思って、それで本格的に始めました」
━━内定後から始めて、どういった流れで取得していったのでしょうか?
「1年目で電験三種、翌年にエネルギー管理士(電気分野)を取って、2013年には電験二種の一次試験に合格しました。その年は都合が悪く、二次試験は受けられなくて……。電験二種の二次試験に受かったのは2014年ですね」
━━社会人になってから本格的に始動したんですね。勝手なイメージですけど、学生のときから取り組んでいたと思っていました。
「完全にゼロベースというわけではなくて、電磁気とか電気回路、電子回路は学生のときに科目としてあったので、その積み重ねは大きかったですね。電験は特に感じました。過去問題をチェックしたときに案外と計算問題が多いなと思ったんですけど、計算問題は高校時代から得意だったので、その部分ではスムーズに取り組めました。電験の計算問題は大半の受験者が苦労しているし、ここで合否が分かれます。計算問題に苦手意識を持ったままだと合格は厳しいですね」
━━2014年に電験二種を取得して、そのまま電験一種へ?
「会社の受電電圧から二種で対応できるので、最初は電験一種を取るつもりはなかったんです。でも、資格試験に取り組んでいるときは生活のリズムをつくりやすいし、一種の過去問をみたときにイケそうだと思ったんです。それでチャレンジしました」
━━「生活のリズムがつくりやすい」とは?
「試験勉強のタイミングです。日中は仕事があるから取り組めませんよね。そうなると、必然的に朝と夜になって、会社の定時が8~17時で、残業があって帰宅時間は19時。そこから食事をして、21時くらいから1時間半。そして、朝は5時半ころに起きて1時間半。このリズムですね。平日で3時間、土日は外出しなければ3~4時間で、試験直前には6時間というところかな。毎週、試験範囲のなかから取り組むテーマを決めて、その内容によって時間が決まってくるという流れです」
━━週によって取り組むテーマを決めているのですね。
「どの資格でも最初に過去問に取り組んで、どの分野ができて、どの分野ができないかと分析するんです。そのなかで「ここは押さえておかないと重大な失点につながる」という分野を優先して時間をかけるようにしています。試験範囲のなかには得意、不得意がありますからね。過去問で苦手分野を見極めるんですよ」
━━そうなると、得意分野はやらない……?
「流す程度ですけど取り組みます。試験直前に時間があったら見直すとか、ポッと空いたときですね。参考書で勉強しているときって、最初から最後まで、すべてのテーマに同じ熱量でチェックしていると、正直、シンドイですよね。だから、優先順位をつけいているんです。自分がやりたいテーマ、やらなければいけないテーマに取り組み、どんどんツブしていくという流れです」
━━さて、二種まで取得すると、どうしても頂を目指したくなりますが、そこは職場の環境を考えて冷静になったんですね。
「結果的に2016年に電験一種を受験して、一次は受かりましたけど、残念ながら二次試験は不合格でした。翌年の2017年に電験一種の二次試験に再挑戦するんですけど、この年に学生時代から興味のあった技術士も受験することにしました」
━━学生時代から技術士を意識していた、と?
「大学時代の講義のなかで「技術士は技術系の最高資格だ」という話を聞いて、そんな資格があるなら取ってみたいと、漠然とした憧れのような感情が芽生えたんです。電験一種も大きな目標ですけど、実務経験を評価される技術士は、自分のなかで最終目標という位置づけになっていました。だから、経験年数が10年となる2020年ころの取得を目標に、技術士の受験を計画していたんです」
━━それで2017年に電験一種と同じタイミングで受験したわけですね。
「はい。電験一種の対策をしていたので、技術士の第一次試験はスムーズでした。電験一種の二次試験対策はどこから出題されるかわからないし、雲をつかむような感覚で取り組んでいたんです。その反面、技術士の第一次試験は出題傾向が明確ですから、同じタイミングで取り組むことは気分転換という意味でも有効でしたね。そのおかげというわけではないけど、その年は電験一種と技術士の第一次試験を無事に合格することができました」
実際の業務において、コンピテンシーを意識した言動
━━それでは、技術士の第一次試験を受験します。本試験までの学習スケジュールを教えてください。
「まず、第一次試験の試験日(2017年度は10月8日に実施)から考えて、だいたい半年前に過去問を解いてみて、ある程度のレベルを把握します。同時に、対策すべき分野を選定して、スケジュールを立てました。私の場合、学生時代に勉強した情報工学や電子工学の分野を忘れていたので、ここは重点的に取り組みましたね。第一次試験は電気電子分野の全体にわたる広い範囲が出題されるため、網羅的に学習するより、優先順位をつけた学習が効果的でした」
━━第一次試験はスムーズに進んだようですけど、電験一種も同時に受験しました。この場合、どちらを優先的に取り組むとか、何らかの線引きはあったのでしょうか?
「本命は電験一種だったので、基本は電験一種をベースにやりました。電験一種の学習の合間にタイミングをみて技術士の過去問を解いたり、理解が足りていないと感じた分野を重点的に取り組んでいましたね」
━━技術士第一次試験は順調にクリアして、次は第二次試験です。でも、受けるまで少し空いていますよね?
「第二次試験は受験を申し込むときに実務経験証明書を提出するんです。どんな仕事に携わってきたか、技術者としてリーダーシップを執ってきたか、そういった経験を充実させる必要があると思って……。ちょうど2018年ころに高効率ガスタービン発電設備を新設するプロジェクトを担当することが決まり、一段落したところで受けようと考えていたので、このタイミング(2023年度)で受験することになりました」
━━実務経験を充実させた期間ということですね。第一次試験は択一式なので、これまでの学習でスムーズに対応できたと思います。しかし、第二次試験は筆記方式。論文に近い解答が求められます。これまでとは違う次元の試験だと感じますが……。
「受験も初めてで、答案の作成方法もゼロベースだったから、とにかく、情報を集めました。答案の添削を行うセミナーがあったり、ウェブの添削サービスもあったりしたけど、最初は自力でやろうと決めて……。完全に独学ですね。だから、YouTubeで試験の体験談を話している動画をチェックして自分なりに解釈するとか、ウェブで展開している試験対策を参考にするとか、受験を決めてからは入念に調べました」
━━やはり、答案の書き方は重要なんでしょうか?
「技術士の場合、文章の表現というよりは、問われていることに対して的確に答えているかどうかが重要視されます。社会的な課題に対して、どのように解決策を導くか、ということですね。何でも答えればいいというわけじゃなくて、技術士にはコンピテンシー(資質能力)があって、それが問われるんです。「専門的学識」「問題解決」「マネジメント」「評価」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「技術者倫理」「継続研鑽」という8つの能力なんですけど、これを認識しないで答えると完全に的外れな答案になって落とされてしまうと思いますし、面接(口頭試問)でも同じ結果になるでしょうね」
━━例えば、知識も経験も豊富だけど、何らかのタイミングで大きなプロジェクトには参画できていない技術者が受けるとします。その場合、口頭試問や実務経験証明書でハジかれるということもありますか?
「単純にプロジェクトが大きいほど有利というわけじゃなくて、いろいろな仕事があって、例えば、ステークホルダーがいるなかで、どのように利害調整をしていったか、自分がリーダシップを執って進めていったか、あるいは、何かアクションを起こして、それに対する評価を行ってフィードバックしたか、そういった日常の業務に対する意識が判断材料になっていると思いますね。1000億円のプロジェクトに携わったとか、規模や予算額ではなくて、技術者として「そのときに、どのように専門的知識や応用能力を発揮したか」という経験なのかなって思います」
━━第二次試験の対策は、いつごろから始めました?
「過去問は2020年にチェックして、情報収集していくなかで、コンピテンシーに触れることが重要だとか、細かいところまで調べ始めたから、そのころがスタートですね」
━━具体的な学習スタイルを教えてください。
「本格的な対策は2022年の終わりくらいで、まずは、実務経験証明書の作成から始めました。そのあとは、ひたすら過去問です。技術士の第二次試験は必須科目Ⅰ、選択科目Ⅱ-1、Ⅱ-2、Ⅲの4問が出題されますが、それぞれの問題に対して、どういったフォーマットが理想的な解答なのか、いろいろ検討して、整理しながら取り組んでいましたね。必須科目Ⅰや選択科目Ⅲのテーマとしては、例えば、人口減少に伴う技術者不足、カーボンニュートラル、食糧問題、地域医療問題とか、そういった社会問題に対して、専門の電気電子技術を用いて、どのように技術的に解決するのか問われます。一般に議論されている社会問題は各省庁が公表している白書にまとめられているので、社会問題となるような複合的問題に対して、どのような課題設定が考えられるか、白書を徹底的に研究しました。試験は必須科目と選択科目で600字×9枚、5400字を1日で書かなければなりません。なかなかハードで、手がつりそうになりましたよ(苦笑)」
━━一般的な論文試験では、指定の原稿用紙の9割を埋めないといけないという不文律のようなものがありました。技術士試験も同じでしたか?
「ある程度は埋める必要があると思いますが、それぞれの問題で600~1800字の指定があって、その文字数だけみると多いように感じるんです。でも、いざ取り組むと、この文字数では、そこまで細かい内容は書けないことに気がつくんですよ。知識だけではなくて、課題や優先順位を設定したか説明を入れなければならないので、必然的に埋まってしまう文字数だと思いましたね」
━━トレーニングはしましたか?
「これは練習しました。時間内に仕上げないといけないし、いきなり1800字も書けないですからね。だから、対策として、まずは一連の流れを決めることを心がけました。構成を考えて、キーワードをあてはめて、答案の全体像をイメージしてから書き始める。そこから600字の原稿用紙で1枚あたり30分のペースで仕上げないといけないので、練習しかないですよね。最初は時間が足りない状態だったけど、だんだん慣れて……。それこそOHM誌で執筆をしていたので、ある程度はアドバンテージになったと思います。役立ちましたね」
━━どうしてもまとめられない、指定の文字数をオーバーするといったことは?
「ありましたね。すべてを入れることはできなくて、表面的な内容しか書けないケースもありました。どうやって掘り下げていくか、すべてが入らないなら重要な部分だけを抜粋しなければならない、そうなったら抜粋した理由も必要だって……。もう試行錯誤するしかありません(苦笑)。でも、取り組んでいくとパターンというか、答案作成の一連の流れをつかめるようになるんですよ。そこまで達したら、あとはルーティンのようなものですからね。とにかく、書きまくることが最善策だと思います」
━━とにかく、書きまくる、と……。
「それしかないですね(苦笑)。ただ、闇雲に答案を作成しても成果は低いと思うので、技術士のコンピテンシーに沿っているか、常にチェックが必要になります。科目ごとに問われているコンピテンシーは明確になっているので、各科目に対する自分なりの理想的な答案を求めて書きまくることが必要でしょうね。あと、第二次試験の勉強方法には「キーワード学習」という方法があって、これが大切だと言われていたりするんです。「300ワードやったら合格する」という目安みたいなものがあったりするんですけど、これは合わなかったなぁ(苦笑)。私の方法が間違っていたのかもしれないけど、深掘りしすぎちゃうから時間ばかりかかって、あまり効率的な学習にはなりませんでしたね。それよりも理想的な答案を仕上げながら自分のスタイルを確立させることを優先して、その過程で技術士の第二次試験に必要な知識を整理していきました」
━━何年分の過去問に取り組みましたか?
「6~7年分ですね。そのほかに白書を参考にしながら予想問題もつくっていました。必要な技術要素を盛り込みつつ、コンピテンシーを意識しながら解答を仕上げる。この作業の繰り返しです。何度もチェックしながら進めていましたよ。あまり独りよがりの内容でもダメなので、表現として間違っていないか、業界の常識として正しいか、そういったところも大切ですね」
より広い視野を持つ、対応力のある技術士になるために……
━━万全を期して挑んだ第二次試験。スムーズにいきましたか?
「正直に言うと、合格に確信は持てませんでした(苦笑)。しっかり書けたとは思うんですけど、あれを書いておけばよかったとか、ちょっとした後悔はありました。技術士は合格通知とともに成績評価も通知されて、自信のあった科目がB評価で、心配していた科目のほうがA評価だったり、どのように評価されるかは最後までわかりませんね。どんなにいい答案が書けたと思っても、出題者の意図から外れたら評価されない、まさに典型的な例です」
━━第二次試験をクリアしたら、次は面接、口頭試問です。どのような対策を行いましたか?
「口頭試問はコンピテンシーに基づいて「多様な関係者との利害調整を、どのように行ったか?」「人、物、金といったリソース配分において、どのような考え方で優先順位をつけたか?」と、だいたい聞かれることは決まっているから、それに対して自分なりに解答をまとめて……。それこそ想定問題集を整理しました。過去に携わったプロジェクトに該当する内容をコンピテンシーごとに表でまとめて、本番を想定して声に出して読む練習をしていましたね」
━━ご自身の経験を話すわけですから、第二次試験と比べるとやりやすかった?
「それでも対策は必要でしたね。試験を受けていた当時に取り組んでいた高効率ガスタービン発電設備を新設するプロジェクトで「どのような関係者がいて、利害関係を調整する場合は、どういったケースがあったか、自分は技術者として、どのように解決を図ることができたか」とか、口頭試問で答えられるように実際の仕事でコンピテンシーを意識するように心がけていました。しっかり言葉で伝えるには、日ごろから意識を持って仕事をしないと対応できませんからね」
━━日常の業務が重要だということですね。どれくらい練習しましたか?
「資料をQ&A形式でまとめたら、空き時間があれば練習はできるので、その都度ですね。私はクルマや自転車で通勤していたので、その間は用意したQ&Aを頭のなかで繰り返していました。恥ずかしいけど、直前には本番のシチュエーションを想定して、自分の部屋でスーツを着て、イスに座って、声に出して答える練習なんかもしていました(笑)。この口頭試問は普段の業務の延長みたいなもので、保全担当者であれば点検結果を説明したり、設計担当者であったら設計、工事計画についてプレゼンしたり、そういったシーンはめずらしくないと思います。だから、日常の業務で意識的に取り組むことは大切ですね」
━━口頭試問まできて、不合格になるケースは……?
「回答にコンピテンシーが含まれていなかったらアウトになることもあるようです。私が受験した年は、電気電子部門(電気分野:電気設備)の筆記試験の合格者が21名いて、そのうち4名の受験者が口頭試問で落ちているようなので、決して油断できないですね。しっかり対策をしておかないと合格も容易ではないと思いますよ。コミュニケーションが得意だから(対策を)しないでも大丈夫だろうって侮ると痛い目に遭ってしまうんじゃないかな」
━━口頭試問も対策は必要不可欠なんですね。さて、憧れの技術士に届きました。資格でも、業務でも、今後の展望について教えてください。
「技術士、電験、エネルギー管理士、危険物、消防設備士と、取得したいと思っていた資格はひととおり取得できたので、資格試験の学習で得た知識を日常業務のなかで発揮できるように、アウトプットを意識して業務に取り組みたいですね。長年、同じ会社で電気関連の仕事をしていますが、例えば、他社のDX推進の取り組みはどうなっているのか、といったことは社内だけでは情報が入ってこないんですよ。情報共有できないというか……。でも、技術士になると「技術士会」があって、ほかの企業の技術士と交流できる場があるんです。これは技術士になったときの楽しみの1つで、この活動には積極的に参加していきたいですね。ここで情報を集めて自分の技術や知識をブラッシュアップし、いまの会社はもちろん、将来的には日本の産業に貢献していきたいと思っています」
参考図書
・「はじめの一歩 技術士第二次試験 受験対策 基礎の基礎」
・「電力・エネルギー産業を変革する50の技術」
・「電験一種・二種/技術士 合格に導く分野別最重要テーマ」
・「技術者倫理とリスクマネジメント-事故はどうして防げなかったのか?-」
文/編集部