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AIにまつわるキーワードを詳細解説!【技術士のHOTワードWeb 第3回】
「総合技術監理部門」の合格につながる
2024.06.18
第3回
人工知能(AI)、機械学習、ディープラーニング、生成AI
技術士における21の技術部門のなかで、一線を画すカテゴリーである総合技術監理部門。時々刻々と変化する最新テクノロジーの知識を吸収する専門性だけでなく、さまざまな分野を総合的に判断できるマネジメント能力も求められる。まさに、スキルアップのために取得する部門だ。
本連載は、総合技術監理部門の試験に必要な「キーワード集」(文部科学省が公表)のなかから、HOTなキーワードを徹底解説するものである。今回は人工知能(AI)に関連する4つのキーワードを取り上げる。なお、そのうち「ディープラーニング」と「生成AI」はキーワード集2024で新たに追加されたキーワードである。
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(1)人工知能(AI:Artificial Intelligence)
筆者が社会人になった1972年は第一次AIブームの最中であり、この期間に対話できる自然言語処理プログラム「イライザ(ELIZA)」が誕生していた。イライザはミュージカル「マイ・フェア・レディ」の主人公の名前である。
イライザは文章入力であり、言語としては英語のみであったが、現在はスマホなどでも広く利用されている「音声入力における自然言語処理の母」ともいわれている。
しかし、この時期のコンピュータの処理能力や記憶容量は大きくなく、科学者や技術者の間では実用化を疑問視する声が上がりはじめ、第一次AIブームは下火となっていった。
1980年代には第二次AIブームが到来し、エキスパートシステムが事業に広く導入された。エキスパートシステムとは特定の専門分野の知識を持ち、専門家のように事象の推論や判断ができるようにしたコンピュータシステムである。
実用例としてはインターネット通販サイトでの関連商品レコメンド機能、同じく検索サイトでのユーザーの関心に応じて記事を表示する機能、SNSでのチャットボット(自動的に会話できるプログラム)などが挙げられる。
筆者の職場でも「看護師長さんのための看護師スケジューリングシステム」をクライアントに提供して、看護師の経験、能力、個別の事情を考慮したシフトを組むときに便利であると看護師長に評価された。
しかし、知識を人間が手作業で入力することの限界、システムの性能的な限界や知識獲得のボトルネックなどにより、第二次AIブームは1990年代初めに下火となった。
1997年にチェス専用コンピュータ「ディープ・ブルー」が世界王者に勝利し、2012年には将棋のプロに、2016年には囲碁のプロにコンピュータが勝利して大きな話題となった。
2000年代からは第三次AIブームが始まった。現在、その最中にいる。このブームをけん引する3つの技術革新(表1)により、AIの実用化と活用が進んでいる。
なお、総監試験のAIに関連する問題としては、AIネットワーク社会推進会議が示した「AI利活用ガイドライン」から、記述の適切、不適切を問う出題(R4Ⅰ-1-29)があった。


(2)機械学習
総監試験のキーワードとしての「機械学習」はキーワード集2019から存在していたが、キーワード集2024では「情報分析と情報活用」の節から「情報通信技術動向」の節に移動し、新規に追加となった「生成AI」「ディープラーニング」とともに中項目「人工知能(AI)」でくくられた。機械学習は人工知能の要素技術の1つである。
機械学習とは機械が膨大な量のデータを学習することで自らルールを学習し、それに則った予測や判断を実現する技術のことである。
学習方法にはデータを学習して特徴を把握していく「教師あり学習」と、さまざまな次元でデータ分類などを行う「教師なし学習」、そして、自ら試行錯誤して正解を求めていく「強化学習」の3種類が存在する(表2)。
AIは機械学習の成果として「画像の判別」や「将来予測」を行うことができる。Facebookを利用している読者は、アップした集合写真に「○○さんと一緒にいます」などと表示される経験をしたと思う。これが「画像の判別」機能によるものだ。
一方で「将来予測」は機械学習の結果を生かしたマーケティング、需要予測や在庫管理など、多くの分野で活用され、複数のアルゴリズムによる予測結果をもとに、設備投資計画などの意思決定にも利用されている。

(3)ディープラーニング
ディープラーニングとは膨大な量のデータを学習し、共通点を自動で抽出していくことにより、状況に応じた柔軟な判断を下すことが可能になる「機械学習技術の1つ」である。従来の機械学習と異なるのは、より高精度な分析をする点で、ディープラーニングは「教師あり学習」の一部に位置づけられている。
ディープラーニングにはトレーニングが必要で、これはニューラルネットワーク(コンピュータ・サイエンスと統計学を組み合わせて、人間の脳の仕組みを模倣したAI領域での問題解決手法)と呼ばれる複雑なモデルに、大量のデータを使って学習させるプロセスのことである。このプロセスは4つの主要なステップで構成される(表3)。
トレーニングは複雑で時間のかかるプロセスであるが、適切に行うことで優れた性能を発揮するモデルを構築することができる。表4にトレーニングのポイントを示す。
ディープラーニングには機械学習では難しい複雑な処理を行えるというメリットもあり、人間の精度を超えるケースは決してめずらしくない。これまで人間が行ってきた業務の一部をAIに置き換えることも可能となる。
例えば、医療画像診断では、ディープラーニングは膨大な数の画像データから病気の特徴を学習し、人間の読影者(医師)と同等か、それ以上の精度で病変を検出することができる。
また、自動運転技術においては車両の周囲の環境を認識し、適切な運転行動を決定するために用いられている。
特に、医療や自動運転といった安全性が求められる分野においては「判断の精度」が必要不可欠な要素となるため。ディープラーニングが重要な役割を担うことになる。


(4)生成AI(Generative AI)
生成AIは、これまでの総監試験に出題されていない。生成AIの一部はインターネットを使ってフリーで使用できるし、職場で経験できる場合もある。受験者は実際に使用して、知識や課題を整理し、出題に備えてほしい。
生成AIは人工知能(AI)の一種で学習データをもとにテキスト、画像、音楽、動画など、さまざまなデジタルコンテンツを生成するAIのことである。ここで、注意したいのは生成は創造ではないという点だ。
「生成」とは既存のものから派生させたり、組み合わせたりして新しいものをつくる行為であり、例えば料理などをつくることなどが該当する。
一方、「創造」とは独創的なアイデア、新しい価値を生み出すことであり、例えば、創作料理をつくり出すことなどが該当する。この2つを峻別することは難しいが、避けて通ることはできない。
2024年5月3日のOECD閣僚理事会はAI開発者たちにAIによる偽および誤情報への対処を求めることを閣僚声明に盛り込んだ。
(1)生成AIの仕組み
生成AIは主にディープラーニングを用いて学習を行う。具体的には大量のデータからパターンを学習し、そのパターンに基づいて新しいデータを生成する。例えば、文章生成AIの場合、大量の文章データを読み込み、単語の並び方や文法規則などのパターンを学習し、それに基づいて新しい文章を生成する。
(2)生成AIが生成するものの種類
生成AIが生成するものの種類を表5に示す。

(3)生成AIの活用事例
生成AIは、さまざまな分野で活用されている。その一例を表6に示す。

(4)生成AIの課題
生成AIは多くの可能性を秘めた手段、技術であるが、発展途上のものであり、常に「誰のための技術か、何のための技術か」を考えて利用することが重要である。
技術は必ず両刃の剣であり、使い方によって人間を幸福にすることもできるし、不幸にすることもできる。筆者は「倫理とは自他の幸福のために生きる人間の道」(月刊「技術士」2024年5月号「技術者倫理教育の考察、実践と課題」)と考えている。
生成AIによって生成されたコンテンツやデータを以下の観点から、しっかり評価したうえで利用の可否を判断しなければならない(表7)。
2024年5月4日の読売新聞朝刊の特別面で「生成AI考」が掲載されていた。テーマは「医療を任せられるか」で、段抜きのテーマは「悩みに『共感』できるか」「正確性に懸念がある」「患者を真に理解することは難しい」などの懐疑的な見出しとともに、「薬の開発大幅加速も」といった見出しもあった。生成AIへの認識を深めるとともに、人間を幸せにして、その環境を守る技術か否かの観点から常に評価したうえで活用することを心がけたい。

[参考]
「生成AIの核心「新しい知」といかに向き合うか」
西田 宗千佳著、株式会社NHK出版、2023年
「イラストで学ぶディープラーニング 改訂第2版」
山下 隆義著、株式会社講談社、2018年
文/南野 猛(技術士:情報工学、総合技術監理)