License
自然環境にまつわるキーワードを詳細解説!【技術士のHOTワードWeb 第2回】
「総合技術監理部門」の合格につながる
2024.05.21
第2回
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)、補完性原則・補完性原理、グリーンインフラ、プラネタリー・バウンダリー
技術士における21の技術部門のなかで、一線を画すカテゴリーである総合技術監理部門。時々刻々と変化する最新テクノロジーの知識を吸収する専門性だけでなく、さまざまな分野を総合的に判断できるマネジメント能力も求められる。まさに、スキルアップのために取得する部門だ。
本連載は、総合技術監理部門の試験に必要な「キーワード集」(文部科学省が公表)のなかから、HOTなキーワードを徹底解説するものである。今回はキーワード集2024で新たに追加された「自然環境」に関連する4つのキーワードを取り上げる。
【OhmshaOnlineで販売中!】
令和6年度(2024年度)技術士第一次試験「基礎・適性科目」模範解答PDF
詳細は▶こちらから
(1)TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)
TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)は、企業や金融機関の事業活動における自然資本や生物多様性への影響を評価するための国際的なフレームワークである。
TNFDはTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)から派生したイニシアチブで、気候変動による生物多様性の喪失が企業、金融機関の事業活動に与えるリスクや機会を可視化するために2021年に設立された。
生物多様性の喪失は食料や水資源の供給、医薬品開発、観光業など、さまざまな経済活動に影響を与える可能性があり、企業や金融機関にとっても大きなリスクとなる。
TNFDは生物多様性保全と持続可能な社会の実現に向けて、重要な役割を果たすことが期待されている。企業や金融機関はTNFDのフレームワークを活用することで、事業の自然資本や生物多様性への影響を適切に評価し、適切な対策を講じることができる。また、その取り組みの情報開示によって投資を呼び込み、環境に対するさらなる社会的責任を果たし、新たな機会を獲得するという好循環を期待できる。
(2)補完性原則・補完性原理
環境保全における補完性原則と補完性原理は異なる概念だが、それぞれ環境問題の解決に向けて役割を果たす。
・補完性原則
環境保全における補完性原則は「個人で処理できることがらは個人に任せ、そうでないことがらに限って政府が処理すべきという官民の役割分担原則」との考え方である。
補完性原則の具体的な適用例は以下となる。
(ア)個人が日常生活のなかで、ゴミの削減、再利用、再資源化、ゴミになるものの受け取り拒否、つまり、4Rに取り組む。
(イ)個人が電気、ガスや水の使い方を意識し、省エネを行う。
(ウ)個人が環境ラベルなどを参考に、環境負荷の少ない製品を選ぶ。
・補完性原理
環境保全における補完性原理は「環境問題の解決は、地域、国、国際社会など、それぞれのレベルで適切な取り組みを行うべきであり、上位レベルは下位レベルの取り組みを補完する役割を担うべき」という考え方である。
補完性原理の具体的な適用例を以下に示す。
(ア)地域住民による環境問題への取り組みを地域レベルで支援する。
(イ)環境規制や環境保護政策を国レベルで策定する。
(ウ)国際的な環境条約を締結し、国際社会レベルで地球環境問題に取り組む。
筆者は地域のシニアクラブの会長を務めている。筆者の住む自治体(江戸川区)では、町内会や老人会などのコミュニティがいっせい清掃日などを設けて集めたゴミを、通常のゴミ収集とは別に事前に取り決めた日時、場所で回収してくれる。これは補完性原理の一例である。
・補完性原則と補完性原理の関係
補完性原則と補完性原理は互いに補完しあう関係にある。それぞれのメリットを表1に示す。
なお、補完性原則は総監試験問題R元Ⅰ-1-37の選択肢の1つとして出題されている。

(3)グリーンインフラ
グリーンインフラ(Green Infrastructure)は自然環境(森林、河川、海岸、緑地など)を従来のインフラ(道路、鉄路、ダム、港湾など)とともに整備することで、表2に示すような人間や環境への最良の効果を実現するものである。
グリーンインフラに取り組んでいるのは民間企業、自治体、国交省、環境省、農水省などで、表3に示すような具体的な実施例がある。
今後の課題としては耕作放棄地(農水省の発表によると、全耕作地430万haの約10%)や、居住目的のない空き家(総務省の発表によると総住宅数6240万戸の約6%)を森林や緑地として活用するなど、立法を含めての対応が期待される。


(4)プラネタリー・バウンダリー
プラネタリー・バウンダリー(Planetary Boundaries)とは、人類が地球上で生存していくために超えてはならない「地球環境の限界(バウンダリー)」のことである。
2009年にストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム所長らにより提唱された概念で、地球の限界や惑星限界とも呼ばれる。
プラネタリー・バウンダリーは人類が生存できる安全な活動領域と、その限界点を定義する概念で、限界値の範囲内であれば人類は発展し、次世代も生き残ることができるとされる。表4に示す9項目において、それぞれの項目で超えてはいけない、または下回ってはいけないという限界値が決められ、それを超えると地球温暖化や異常気象といった環境問題が生じることになる。
プラネタリー・バウンダリーは地球の限界を脅かす多様な要因を科学的に分析し、1つの図に集約して示したことで注目を集めた。この図は限界値と現状値をわかりやすくしたレーダーチャートに似た表現となっている。この機会に最新値をチェックしてほしい。

ここで取り上げた4つの新キーワードは出題されることが多いので、受験者は理解を深めることをオススメする。
2030年をゴールとするSDGsには持続可能な環境への課題も多く、これからが正念場である。目標達成のために、われわれ技術者は公私ともに最後までチャレンジしていきたい。
[参考]
「環境・福祉政策が生み出す新しい経済“惑星の限界”への処方箋」
駒村康平・諸富 徹 編著、全労済協会 編、株式会社岩波書店、2023年
「ESGとTNFD時代のイチから分かる 生物多様性・ネイチャーポジティブ経営」
藤田 香 著、株式会社日経BP社、2023年
文/南野 猛(技術士:情報工学、総合技術監理)