Interview
電験、エネ管、ジュニアマイスター……。集まれ、電気のスペシャリストたち! 三重大学の学校推薦型選抜【技術者のタマゴたち】第4回
次世代を担うエンジニア列伝
2026.02.06
「専門分野の追究」こそ、ライセンスが輝きを放つ
昨今の技術者不足により引き起こされた現場の疲弊。さまざまな要因があるなか、電気分野では深刻な事態に陥っている。
「電験」を所有する若手技術者が極めて少なく、これが現場の高齢化はもちろん、人材育成のサイクルに影響を及ぼしている……。
しかし、一方で若い力が着実に育まれているのも事実。次世代の電気分野で活躍が期待されるリーダーは、何を考え、どのように自分自身を高めているのだろうか。
今回は、学校推薦型選抜の要件に「資格」を掲げる三重大学をフィーチャー。資格が持つ専門性を「研究」に活用するルートを切り開いた、東海屈指の名門大学が打ち出したポリシーに迫ってみる。
──貴学で実施している推薦入試に、電気分野のライセンスの取得が要件として挙げられています。この推薦枠は何年も前からウワサでは聞いていましたが、最近、合格者や受験者にインタビューする機会があり、工業高校生の進路において1つの選択肢として確立している印象を抱いています。特に、要件の1つである「電験」はアカデミックに電気を追究したいと考える工業高校生の、まさに「希望」といえます。三重県の松阪工業高校さん、大阪府の都島工業高校さん、静岡県の浜松工業高校さん、そのほか資格の取り組みに積極的な学校では、貴学を頂点とした「資格~研究」が1つの指標になっています。
村田先生:松阪工業高校さんも取材されているんですね。毎年のように入学していただいています。工業高校から入学してくる学生は、誤解を恐れずに言うと、入学直後は専門課程の授業には強いけれども、英語や数学といった一般課程の授業は少し苦労するケースが多いです。これは 高校でのカリキュラムが違うので仕方ないところがあります。でも、独力で勉強して苦手な科目を克服し、本学を卒業するときにはクラスで1~2番という成績の学生がいます。もちろん、全員というわけではありませんけど、総じて成績上位が多いですね。そういった意味では、この推薦枠は有効だと思っています。
──工業高校の生徒を対象にした推薦枠を始めたのは、いつごろでしょうか?
佐藤先生:もともとはAO入試で、2018(平成30)年まで実施していました。これは高校の区分に関係なく、同じ内容の筆記試験を受けてもらうものでした。科目は数学と物理ですね。
村田先生:ただ、普通科とはカリキュラムが違うので、工業高校生には少し難しかったようです。
佐藤先生:どちらかというと、工業高校生には不利でした。一方、本学には専門課程がある工業科で意欲的な学生を受け入れたいという方針があります。そこで、三重県内の工業高校をリサーチしたところ、工業高校生にとって電験三種は最も難易度が高い資格であることがわかりました。あとは無線(第一級陸上無線技術士)も難しいし、ジュニアマイスター顕彰も認定されるには相応の学力が必要になります。このような、さまざまな資格を取得している熱心な学生を受け入れたいと思って、推薦入試の要件に導入しました。これが2019年ですね。
村田先生:AO入試が変わったときに特別枠を設けたんです。少しずつマイナーチェンジをして、いまに至っています。
──AO入試の時代に門戸を開けていたんですね。
村田先生:より明確に要件を打ち出すほうが学生のモチベーションも上がるし、高校の先生も指導しやすいので、お互いにメリットがある方法だとは思っています。
──推薦枠で専門分野、電気なら電気専門のカリキュラムを修めている学生を受け入れる。そのような展開になった理由を教えてください。
村田先生:私たちは工学部の電気電子工学コースの所属です。この視点から、工業高校の電気分野にいる学生のことを考えてみると、彼らは中学校卒業の時点で、すでに電気工学や電子工学分野に興味を持って、取り組んでみたいと考えていたのではないかと思います。つまり、大学受験の時点で電気電子工学を選択した学生よりも、もう少し前から興味を持っていたと思うんですよ。そんな学生が、より深く電気を追究したいと思うなら、大学としては何かサポートすべきではないかと考えたのです。これが大きいですね。工業科のカリキュラムは普通科に比べると専門的だから、入学後の学習は決して容易ではありません。それでも、資格を取得して本学に入学してきた学生は、普通科出身の学生より電気分野の実践的な知識を持っていることが多いです。本当に意識が高いです。
佐藤先生:私立大学の工学部では推薦で「工業科枠」を設けているケースはあります。国立大学では三重大学以外は把握していませんが、この推薦入試を始めて言えることは、工業科出身の学生は専門課程に圧倒的な強さを持っていますね。
──「資格を取得している学生」と推薦要件に設けて、実際に2019年から入学試験を始めると方針を決めるまで、どれくらいの期間を要したのでしょうか?
佐藤先生:3~4年は議論していたと思います。
村田先生:通常の推薦枠に色をつけたというか、そういった展開だったように記憶しています。
──それは専門的な分野に踏み込むということ?
佐藤先生:そうですね。高校在学中に電験三種を取得するとなると、極めて高いモチベーションが必要だと思います。そういった意欲的な学生を確保したいという考えはありましたね。電気電子工学コースに入学してくる学生のなかには、たまたま偏差値がフィットしたから選んだとか、電気を学びたいという意欲が必ずしも強くないケースがあります。私たちからすると、これは残念なことです。そういった意味でも学生全体の刺激になって、電験にチャレンジしてみようとか、前向きな意識につながっていくことを期待しています。
村田先生:例えば、電子回路の授業では、工業科出身の学生は、すでに基本的な回路について理解しているので、積極的に質問や回答をして、みんなをリードしていってくれたこともありました。すごく助かりましたね。
──毎年、募集人員は同じなのでしょうか?
村田先生:基本的に3名で、5名という年もありますね。2025年度は5名でした。
佐藤先生:一応、定員は設けていますけど、意欲的な学生に入学してほしいので、入学試験の成績が優秀であれば、定員以上の合格者を出すこともあります。
村田先生:ありがたいことに、電験三種を取得したあと、さらに電験二種にチャレンジしていたりして、より深く電気電子工学を追究したいという学生が集まる年もありますね。


電験二種がデフォルトへ。研ぎ澄まされた専門性
──2020年まで推薦入試で、翌年度から学校推薦型選抜に変更しました。
佐藤先生:これは単純に名称が変わっただけですね。
──ただ、2025年度から推薦要件に「電験二種」「エネルギー管理士(電気分野)」が追加されました。この2つの資格を加えた意図を教えてください。
村田先生:県内の工業高校を訪問してリサーチした結果、追加した資格です。松阪工業高校さんのように電験に突出した実績を残している学校もありますが、ほかの学校にも、それぞれカラーがあります。一方、本学の電気電子工学コースにも情報処理や通信技術の研究をしていたり、半導体に取り組んでいたり、エネルギー技術やロボットを開発したり、いろいろな研究室があります。だから、もっと門戸を広げる意味でも、検討を重ねながら少しずつ追加している状況です。
佐藤先生:電験二種もエネルギー管理士試験も難易度が高いので、追加しました。電験三種に満足しないで、より難しい資格にチャレンジしてほしいという期待を込めています。
──貴学で三重県内の工業高校を訪問している先生がリサーチしてきたのでしょうか?
村田先生:そう聞いています。
佐藤先生:電験三種は試験が上期と下期の2回になって、CBT方式も導入されています。これは技術者不足の解消が目的だと思いますが、三種が受験しやすくなると、今後は電験二種に合格して入学してくる学生が増えてくるかもしれませんね。最初、電験二種はいないだろうって話はしていたんですけど、案外と受験している学生が多くて、それだったら要件に入れようってことで追加したんです。
村田先生:私たちが高校生のころの工業高校とはカラーが違ってきていると思います。昔はヤンチャな学生が多かったけど、昨今は本当に学生のモチベーションが変わってきているように感じますね。しっかり勉強する姿勢になっている。だから、それを受けて、大学側も変わっていかないといけないんですよ。
──電験二種も要件に追加されましたが、これまでは原則として電験三種の合格、もしくは合格していなくても、要件の「理論を含む2科目以上の合格(法規は対象外)」を満たしていれば出願が可能です。電験二種と三種、完全合格と科目合格、この違いで合格に有利、不利があったりするのでしょうか?
佐藤先生:それはありません。面接や提出書類から総合的に判断しています。
村田先生:推薦要件をクリアしている学生は、高校時代、しっかり取り組んできているので、取得しているかいないかは大差ないです。それにしても、この推薦枠で入学してくる学生は、大学で本当によく勉強しています。カリキュラムが普通科と違うから、例えば、高校の数学の授業では積分の内容が抜けているんですけど、大学では「積分を理解している」ことを前提に講義が進みます。これを予習、復習しながら、レポートも作成して……。本当に努力を感じますね。たぶん、難しい資格試験にチャレンジして合格しているから、自発的に勉強する習慣がついているんだと思います。
──話は変わりますが、貴学の推薦枠は工業高校の先生から聞いた情報です。導入した当初は、まだまだ工業高校でも把握していない先生がいました。
村田先生:三重県内の工業高校では周知していたけど、ほかの地域、関西でも知らなかったということもありました。工業高校推薦枠を含めた、すべての入試情報を募集要項に盛り込んでいるので、説明しないとわかりづらいかもしれません。内容が入学試験だから、あまり砕けた表現もできないし……。始めた当初は「どこに載っているのかわかりにくい」という話は聞きました(苦笑)。
──以前は三重県内の学校が中心だったと思いますが、いまや関西地方にも「電験三種で国立大学に入れる」という情報が広がり、進路の1つとして確立されています。貴学は三重県に設置されている国立大学ですが、推薦となると地元の学生に有利というわけでもない……?
村田先生:それもないですね。ただ、本学は「地元で勉強したい」という学生が多いので、結果的に三重県出身の学生が多くなっています。
佐藤先生:他府県からの受験者もいますけど、一番多いのは三重県なので、地元の大学としてキャリアパスに活用してくれていると思いますね。
村田先生:東海地方には名古屋大学をはじめとする多くの大学があり、コンペティションがあります。大学には優秀な学生を確保して、優秀な人材、技術者を輩出するというミッションがあるので、地域色を出す意味でも、1つのアプローチとして「資格」を要件に組み込んでいるんです。ここまでやらなくても、名古屋大学ではいい学生が集まってきますよね、たぶん(苦笑)。本学では、この取り組みがスペシャリスト予備軍を集めるいいアプローチだと思っています。
──資格取得を目指している学生が対象です。やはり、学習への意欲は高いでしょうか?
村田先生:この推薦枠で入ってきている学生は総じて意識は高いですね。大学院に進んだ学生もいます。思い描いたイメージと違うということで、モチベーションが上がらなかった学生もいるかもしれませんが、ドロップアウトはないですね。
佐藤先生:全体的に成績はいいですね。学年トップの学生もいるし、1ケタ台も多いです。モチベーションが上がらなかった学生でも真ん中より上の成績。みなさん、非常に努力している印象はあります。
──大学というと、どうしても「研究」というイメージが先行します。貴学は推薦枠で資格を要件に掲げていますが、入学後、資格取得は推奨していますか?
村田先生:個人的には、ものづくりが好きで、資格を取得して技術を身につけるのはいいことだとポジティブに考えています。一方、大学は最先端技術の研究を行うことが前提です。この両立、バランスが難しいところはあります。
佐藤先生:大学で研究しているアカデミアのトップの人間は資格に否定的なケースが多いですからね。
村田先生:資格の勉強をするくらいなら、研究して論文を書きなさいというタイプですね。
佐藤先生:ただ、これも研究室単位で濃淡はあって、私の場合、学生生活で熱中することが何もなかったら資格へのチャレンジを推奨しています。TOEICでもいいし、それこそ電気電子工学コースなんだから電験だったり……。就職するときに1つのエピソードとして面接で話せるからいいと思っていたら、最近「電験三種に合格しました」って学生が出てきました。

「推薦枠の新設」から「国際化」まで、多様性を尊重した大学へ
──電験があって、エネルギー管理士があって、1つのカタチとして確立している印象があります。推薦要件として、今後、新たなプロジェクトが始動したり、何かありましたら教えてください。
学務部入試チーム:2025年4月に電子情報工学コースを新たに設立したんですけど、三重大学として初めて女子枠を導入しました。多様な背景を持つ人材を育成するという流れから、今後、ほかのコースでも採用するかもしれないです。
村田先生:その方向に進んでいくと思います。私学でも同様に女子枠があって、全体の3割くらいにするという指針はありますね。女性登用の時代なんですよ。
佐藤先生:工学部のなかでも電気電子工学コースは女性が少なくて、80名のクラスに4~5名という割合。なんとか増やしていきたいです。
村田先生:女子枠ももちろん、大学は国際化の流れがあって、大学院は修士も博士も外国人比率が高くなっているんです。だから、学部も門戸を広げてくださいという状況です。まあ、大変ですよ(苦笑)。募集要項などの書類は英語にしないといけないし、当然、問題も英語。ハードルは高いけど、国際化は進めていく必要がありますね。
──多様化するニーズに応じて、より専門的な分野を追究しやすい環境へとシフトし始めています。そこで、今回の推薦枠ですが、募集人員を増やすという動きはありますか?
佐藤先生:2025年度に、これまでの3名から5名に増やしました。
村田先生:倍増ってわけにはいかないけど、増やす方向にはありますね。
佐藤先生:募集人員の決定には推薦枠で入学した学生の成績や大学生活も考慮されるんですけど、5名に増やしたということは、そうするべき実績があったということです。この推薦枠が非常に有効なんでしょうね。
──入学して、しっかり勉強していることの証し?
佐藤先生:そうですね。あとは、モチベーションを維持しているかどうかですね。入学しても、講義についていけない、留年ギリギリの成績の学生が続出する状況だと募集人員が増えることはありません。
村田先生:入学後、しっかり勉強する流れは確立していると思います。この推薦枠で入学してきた学生、松阪工業高校さんの出身ですけど、学年でも1ケタの成績で、研究室でもリーダーシップを発揮していました。その彼の姿をみて、後輩たちも刺激を受けているので、モチベーションについては大丈夫かなと思います。
──資格を取得して、もっと専門分野を追究したい、勉強したいという学生にとっては、この推薦枠は本当に励みになります。
佐藤先生:電気分野のボトムアップのために、ほかの大学でも導入してほしいと思う制度です。
村田先生:専門知識を身につける流れとして、最近、高等専門学校が注目されています。キャリアパスになったんですね。そう考えると、工業高校において、卒業後、そのまま就職するという選択肢だけでなく、大学に入学して、より専門的な勉強ができるというルートを提案できたんじゃないかなと思っています。この取り組みは広げていくのがいいのではないかと思っています。


取材、文/編集部、協力/三重大学
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