Management
ハラスメントの予防策を学ぶ【コンプライアンス入門 第18回】
現場で役立つ!
2025.09.08
第18回
ハラスメントのない職場
ハラスメントを生まない職場
ハラスメントはあってはならないことだが、もし発生したら、どうすればいいか。そして、ハラスメントのない職場をつくるためには、どのようにすればいいか。今回はハラスメントの予防策(図1)を解説する。
(1)トップのコミットメント
まず、トップが「ハラスメントを許さない」ことをコミットすること。そのうえでハラスメント防止についてルールを作成し、周知、徹底していく。
(2)「相談窓口」の設置、整備
ポイントは「相談窓口」の設置(整備)だ。このときにハラスメントを「芽」のうちに把握し、摘み取るようにしていくことが重要である。社内の窓口では相談しにくいという従業員もいるため、外部機関への委託も検討する必要がある。
窓口に相談が寄せられたら迅速に調査を開始し、必要な措置を講じる。相談が放置されたり、長引かせたりすると、被害者は会社に対する不信感が生じ、事態の解決が困難になるからだ。
大切なのは「相談にきてよかった」と思ってもらえること。それが他の社員にも伝わり、ハラスメントの防止にもつながることになる。
(3)服務規律の整備
就業規則や職場における服務規律などを定めた文書、社内報、パンフレット、社内HPなどを用意する。
そこにはハラスメントに該当する言動を行った従業員に対する懲戒規定を定め、その内容を周知、啓発することが重要である。

ハラスメントへの対処法(発生時に取るべき行動)
ここでは、ハラスメントが起こったときの対処法を順を追って解説する(図2)。
(1)事実関係の正確な確認
ハラスメントの報告があった場合、まず、事実関係の確認から始める。その際、相談者と行為者(加害者)の双方からの事情聴取を行う。ハラスメントの場合、ほかの目撃者がいない密室で行われることも多いためだ。
また、事実関係に不一致があった場合には第三者からの聴取も行うなど、事実関係の確定をできる限り行うことが重要である。
(2)中立の立場で事情を聴く
聴取は人事部の担当者や専門の委員会など、中立の立場から事情を聴くことができる人物が行う。また、聴取は必要に応じて録音したり、複数人で行ったりするなど、聴取内容が正確に記録されるようにする。
聴取した内容は聴取日、聴取者、聴取対象者を特定し、必ず書面で記録を残しておく。
(3)聴取の留意点
聴取には以下の点に留意することが大切である。
・聴取対象者の発言を誘導しない。
・聴取対象者の話を、そのまま記録する。
・過度な同情、否定、反論はしない。
(4)言い分が異なる場合の対応
相談者、行為者の言い分がまったく異なり、どちらが事実なのか判然としないケースが出てくることもある。
そうした場合、「どちらの証言の内容が、より具体性があるか」「証言に変遷はないか」「証言に整合性はあるか」といった点から判断する。
なお、社内で判断が難しい場合は弁護士などの外部の専門家に、あらためて事情聴取を依頼することを考える。
(5)関係者の処分とフォロー
事情聴取の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、行為者、被害者に対して以下のような措置を適正に行う。
・行為者に対して、必要な懲戒、その他の措置を講じる。
・「被害者と行為者の関係改善に向けたサポート」「被害者と行為者を引き離すための配置転換」「行為者の謝罪」「被害者の労働条件上の不利益の回復」などの措置を講じる。
(6)情報管理の徹底
ハラスメントの対処において、情報管理はプライバシー保護の観点からも非常に重要である。そのため以下のような体制を整えておくことが望ましい。
・相談があった場合の対処方法やプライバシー保護のために必要な事項を事前に定め、相談窓口の担当者が、それに従って対応できるようにしておく。
・相談窓口の担当者に必要な研修を行う。
・プライバシー保護について、必要な措置を講じていることを社内ツールなどを用いて広報、啓発する。
(7)被害者から損害賠償等の要求を受けた場合
ハラスメントの被害者から損害賠償などの請求を受け、ハラスメントの事実があった場合、企業は一定の責任を負わなくてはならない。
また、事実がなかった場合、その旨を相談者に伝えたうえで「会社側として要求に応じることはできない」と返答する。押し問答になるようであれば、調停を申し立てるなど、第三者機関(都道府県の労働局、紛争調整委員会など)を通じて解決を図ることもひとつの方法である。

プロフィール
降籏 達生(ふるはた・たつお)
兵庫県出身。映画「黒部の太陽」で建設業に魅せられ、大学卒業後、大手ゼネコンに入社。社会インフラの工事に従事する。1995年には阪神・淡路大震災で故郷の崩壊に直面し、建設業界の変革を目指して独立。1998年にハタ コンサルタント株式会社を設立し、代表として建設業界の革新、技術者の育成、建設会社の業績アップに情熱を注いでいる。
