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経済性管理のキーワードを詳細解説!【技術士のHOTワードWeb 第16回】
「総合技術監理部門」の合格につながる
2025.09.12
第16回
生産方式、プル型生産方式、プッシュ型生産方式、JIT生産方式、かんばん方式
技術士における21の技術部門のなかで、一線を画すカテゴリーである総合技術監理部門。時々刻々と変化する最新テクノロジーの知識を吸収する専門性だけでなく、さまざまな分野を総合的に判断できるマネジメント能力も求められる。まさに、スキルアップのために取得する部門だ。
本連載は、総合技術監理部門の試験に必要な「キーワード集」(文部科学省が公表)のなかから、HOTなキーワードを徹底解説するものである。今回は、経済性管理の分野から5つのキーワードを取り上げる。
(1)生産方式
生産方式は総監キーワード集2023で後述する4つの生産方式についてのキーワードをくくる形で登場した。これは製品やサービスを効率的に生産するための一連の方法や手順のことである。原材料の調達から完成品の出荷まで、生産に関係するすべての活動を包括的に管理する体系を指す。このため、調達関連のキーワードであるサプライチェーンマネジメント(SCM)と一緒に出題されたこともある。
生産方式の目的は、生産効率の最大化、品質の一貫性確保、コストの最小化、納期の遵守、需要変化への対応にある。
①生産方式の分類
生産方式の主な分類を表1に示す

②生産指示方式
生産方式は指示方式によっても分類できる。総監キーワード集ではプル型生産方式、プッシュ型生産方式、JIT生産方式、かんばん方式の4つのキーワードを生産方式としている。
(2)プル型生産方式(後工程引き取り方式)
プル型生産方式(Pull System)は初発の総監キーワード集から掲載されている生産方式のひとつで、顧客の需要や後工程の要求に基づいて生産を行う方式である。「引く」という意味の「Pull」が示すとおり、実際に需要が発生してから生産を開始するのが最大の特徴だ。
プル型生産方式はスーパーマーケットやコンビニエンスストアのシステムでも採用されている。スーパーマーケットでの商品補充を例にする。
(ア)顧客は売り場(陳列棚やコールドショーケースなど)からほしい商品を自由に選択する。
(イ)商品をカートに入れ、レジで支払いをするので店側は販売工数を低減できる。
(ウ)POSレジ(Point Of Sales Resistor)を含むシステムで把握した「売れたもの」を補充する。
補充する前に欠品となり、機会損失とならないようにしたいが、スーパーもコンビニもバックヤードは狭く、ストックできる商品の品目と量は限られるので、適切なタイミングで配送できる体制が必要である。
工場においては、製造ラインにおける部品などの欠品は製造ラインの停止につながる。プル型生産方式は欠品リスクを受容しながらも、実際の需要に追随しようという基本理念に基づいて「後工程からの引き取り方式」、つまり、プル型生産方式を選択することが多い。
米国の自動車産業でも、新型コロナ・パンデミックによるサプライチェーンの混乱、大寒波、一部の半導体の不足などにより、製造ラインが停止したことは記憶に新しい。
①プル型生産方式の仕組み
図1は自動車製造におけるプル型生産方式の概略図である。実際は表2に示す工程で進められる。通常、工程1、2と3、4は直列につながることはない。
筆者は大型プレス機で樹脂をプレスして、バンパーカバーなどを製造する自動車会社の協力工場を見学したことがある。そこでは衝撃緩衝材、グリル、センサ、フォグランプなどを取りつけ、バンパーアセンブリー(自動車業界ではアッシー(ASSY)と呼ばれることもある)として出荷していた。したがって、部品といっても部品展開図の最下層を表さないことがある。
プル型生産方式において前後する2つの工程に着目し、アクション内容を表3に示す。
プル型生産方式では、図1に示すように「プル情報に基づく引き取り」と「補充生産」の連鎖が最終製品から原材料供給まで上流に向かって伝播していく。



②プル型生産方式の特徴とメリット
プル型生産方式の主要な特徴とメリットを表4に示す。

③プル型生産方式の課題
プル型生産方式には表5のような課題がある。
プル型生産方式は多品種および少量生産や、需要変動の大きい製品に特に適しているが、その効果を最大限に引き出すためには徹底したムダの排除と、サプライチェーン全体の最適化が不可欠である。

④プル型生産方式についての過去問題
プル型生産方式についての過去問題を表6に示す。

(3)プッシュ型生産方式(前工程押し出し方式)
プッシュ型生産方式(Push System)は需要予測に基づいて生産計画を立て、図2のように上流工程から下流工程へ製品を「押し出す(プッシュする)」ように生産を進める方式で「見込み生産」ともいえる。生産数が安定している製品や需要予測が立てやすい製品に適している。

①プッシュ型生産方式の主な特徴とメリット
プッシュ型生産方式の主要な特徴をメリットを表7に示す。

②プッシュ型生産方式の課題
プッシュ型生産方式には表8のような課題がある。

③プッシュ型生産方式についての過去問題
プッシュ型生産方式についての過去問題を表9に示す。

(4)JIT生産方式
JIT(ジャスト・イン・タイム、Just in Time)生産方式は、トヨタ自動車が開発した生産管理システム「トヨタ生産方式」の柱のひとつであり、「必要なものを、必要なときに、必要なだけつくる」という考え方に基づいている。
これは前述の市場の需要に応じて生産を行う「プル型生産方式」の代表的な例で、前工程が後工程にモノを押し出す「プッシュ型生産方式」とは異なり、JIT生産方式では後工程が、前工程に必要なモノを、必要なときに、必要な量だけ取りにいくという流れが基本となる。
①JIT生産方式の主な特徴
プル型生産方式(後工程引き取り方式)と同様に、後工程が必要な部品や資材を、必要なタイミングで前工程(加工など)から引き取る。前工程は後工程に引き取られた分だけを生産する。これにより、ムダな在庫の発生を防ぐ。
筆者の住居の近くで11階建てのマンションを建設している。建ぺい率、容積率の高い地域であり、建物周りの空きスペースは狭い。だから、必要なものを、必要なときに持ってきて、必要な部分をつくっている。鉄筋、セメント袋、アルミサッシ類が空きスペースに置かれることはない。まさに、JIT建築方式をみる思いである。
②JIT生産方式のメリット
JIT生産方式のメリットを表10に示す。

③JIT生産方式のデメリット
JIT生産方式のデメリットを表11に示す。

④JIT生産方式についての過去問題
JIT生産方式についての過去問題を表12に示す。

(5)かんばん方式
かんばん方式はトヨタ自動車によって考案された生産管理手法で「必要なものを、必要なときに、必要なだけつくる」というジャスト・イン・タイム(JIT)の思想を実現するための中心的な仕組みである。
①かんばん方式の仕組み
かんばん方式の最大の特徴は、図1の「プル情報」にあたる前工程への指示を「かんばん」と呼ばれる生産指示票や運搬指示票を使って行うことである。後工程が前工程から部品を引き取るときに「かんばん」を渡し、前工程は「かんばん」に指示された数だけ生産を開始する。この仕組みにより、生産の流れをコントロールする。これは、一般的な大量生産方式のように「前工程から、どんどん生産して後工程に渡す」という「プッシュ型」の考え方とは逆で、「後工程が必要な分だけ前工程に引き取りにいく」という「プル型」の考え方に基づいている。
②かんばんの種類と内容
かんばんの種類と内容を表13に、かんばんの例を図3に示す。


③かんばん方式の具体的な流れ
かんばん方式の具体的な流れを表14に示す。このサイクルを繰り返すことで、各工程間の仕かかり品(生産途中の在庫)を最小限に抑え、ムダを徹底的に排除する。

④かんばん方式のメリットとデメリット
かんばん方式のメリットを表15に、デメリットを表16に示す。


⑤かんばん方式についての過去問題
かんばん方式に関連する過去問題を表17に示す。

今回は生産方式に関連する総監キーワードを解説した。これらの生産方式は企業の製品特性、生産量、市場ニーズ、経営戦略などに応じて最適なものが選択されなければならない。生産方式を定着させるには経営者、管理職、技術者、現場の作業者、サプライヤーや協力会社など、すべての関係者が理念を理解しなければならない。また、常に顧客のニーズや潜在的な要求の変容、社会環境や技術の変化に対応することが求められる。そのために課題を共有して不断の改善をすることが重要である。
筆者は新幹線を含む鉄道車両の工場を何度も見学した。工場内は縦横にレールが敷かれ、工場建屋を通過しながら車両が組み立てられていく。各工程の脇に「JIT品」と「かんばん」がついた部品(例えば、車両屋根に取りつける冷房ユニット)が置かれているのを目にして感動した。
末尾に参考文献を記載したが、これ以外にもJIT生産方式、かんばん方式、トヨタ生産方式などに関連する多くの書籍が発行されている。この解説が、世界に誇る生産方式を学びなおす契機になれば幸いである。
[参考]
「セル生産の真髄 人を活かす究極の生産システム」
金 辰吉著、株式会社日刊工業新聞社、2013年
「ナットク現場改善シリーズ よくわかる「プル生産とプッシュ生産」の本」
越前行夫著、株式会社日刊工業新聞社、2008年
「復刻版 トヨタ生産方式のIE的考察 ノン・ストック生産への展開」
新郷重夫著、株式会社日刊工業新聞社、2023年
文/南野 猛(技術士:情報工学、総合技術監理)
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