Q&A
VAV制御システムのファン動力削減効果【設備の相談19】
事例で解決!
2025.07.16
相談
現在、導入しているVAV(Variable Air Volume)制御システムで、年間を通じて給気温度が高く、給気用ファンのインバータ周波数は高めで運転しています。インバータの周波数を下げ、ファンの搬送動力削減効果を高める対策があったら教えてください。
回答
建物所有者の悩み
今回はVAV制御システムにおける空調機の給気温度制御と給気風量制御の見直しによる省エネ事例を取り上げます。
オフィスビルの所有者より、既存のVAV制御システムで搬送動力の削減効果を高める対策がないかとの問い合わせがありました。
一般に、VAV制御システムにおける空調機の給気風量は各VAVの制御状態からの要求風量の総和で決定され、給気温度は各VAVの室内温度と設定値の偏差から給気温度設定値を可変(ロードリセット制御)しています。
空調機の給気温度と給気風量の相関を示すと、特徴は以下の2つに分けられます(図1)。
①大温度差制御モード
冷房運転時の負荷増に対して優先して給気温度を下げ、温度が下限に近づいてから給気風量を上げていく制御です。散布図の形がL型で、搬送動力削減効果が高いのが特徴です。
②小温度差制御モード
冷房運転時の負荷増に対して優先して給気風量を上げ、風量が上限に近づいてから給気温度を下げていく制御です。散布図の形がロ型で搬送動力が大きくなる傾向があります。
そして、対象空調機の給気温度と給気風量の関係を確認したところ、②に近い運転であることが確認できました。
自動制御メーカーからは「給気温度が低いとクレームが発生するケースがあるため、安全サイドの小温度差モードで調整している」との回答がありました。
メーカーには建物所有者の意向を伝えたうえ、テナント入居者からのクレームが出たら、すぐに元のモードに戻せるような形でモード変更を行いました。

チューニング前の状況
冷房運転時の給気温度設定値の温度範囲が15.0~25.0℃であるのに対し、給気温度が25℃付近、給気風量(総要求風量)が定格風量に近い状況でした(図2)。
空調機負荷率(空調機処理熱量[kW]÷空調機定格熱量[kW]×100、単位は%)と空気搬送効率(ATF、空調機処理熱量[kW]÷空気搬送動力[kW])との相関を確認したところ、計測期間中の空調機負荷率が10~30%で、給気温度ロードリセット制御のチューニングにより、搬送動力削減の余地があることが確認できました。このときのATFは2~3でした。

チューニング後の状況
冷房運転時の負荷増に対して、給気温度優先で下げるようにチューニングを行った結果、給気温度と給気風量の相関がロ型からL型になり、大温度差空調が実現できました(図3)。
空調機の負荷率とATFの評価を行ったところ、計測期間中の負荷率が10~30%に対して、ATFは10~18まで上昇しました。

室内側の状況
冷房運転時、大温度差制御モードでの各VAVの室温偏差は、すべて±1.0℃の範囲でしたが、ペリメータに隣接し、在室人員や発熱負荷が少ない系統では、日射の影響が少なくなる時間帯に室温偏差のマイナス幅がやや大きくなりました。
小温度差制御モードでの室温偏差も同様にマイナス傾向になりましたが、大温度差制御モードより偏差が少なくなりました。
VAV開度状態は大温度差制御モードでは中間開度(70%)以下が多く、小温度差制御モードでは中間開度以上が多くなりました。
搬送動力削減効果と運用時の注意点
小温度差制御モードに対する大温度差制御モードの消費電力を比較すると、搬送動力の削減効果は77%減となり、空気搬送効率が約5倍になりました。
なお、両モードともに制御性能はほぼ同等でしたが、大温度差制御の給気温度は小温度差制御と比較して最大で10℃近くまで下がるため、入居者がドラフトを感じる懸念がありました。
チューニング後、3系統のVAV制御システムで大温度差制御モードでの運用を開始しましたが、数カ月が経過後、1系統が小温度差制御モードに戻されていました。その理由は入居者から「ドラフトを感じて寒い」との連絡があったため、設備管理スタッフが小温度差制御のほうが望ましいと判断したとのことでした。
この事例はクールビズが提唱される以前のことで、主な室内温度設定値が24~25℃であったため、大温度差制御モードでは入居者が給気の気流を寒く感じることがあります。また、VAV制御システムの給気温度ロードリセット制御の初期設定値は、メーカー任せにしてしまうと搬送動力効果が十分に発揮されないことがあります。
建物所有者からはモード変更による搬送動力削減効果について高い評価をいただきましたが、運用段階の早期に制御モードのチェックを行い、用途に合わせた設定の見直しの必要性を強く感じた事例でした。
※「設備と管理」2016年6月号に掲載
(回答者/TMES設備お悩み解決委員会)
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