Q&A
VAV制御システムの運用上の留意点【設備の相談18】
事例で解決!
2025.06.09
相談
大規模オフィスビルで導入されているVAV(Variable Air Volume)制御システムについて、運用上の留意点を教えてください。
回答
VAV制御システム
近年、オフィスビル全体の空調システムとして、空冷ヒートポンプマルチパッケージの採用が増えています。そうしたなか、VAV制御システムは延床面積30000m2以上の大規模オフィスビル(主にテナントビル)の基準階インテリア空調機のシステムとして数多く導入され、採用件数は数年前と比べて増加傾向にあります。
VAV制御システムは空調機と複数の可変風量装置(VAV)で構成され、VAVはゾーンごとに設置された室温センサで風量を制御するシステムです(図1)。
1台の空調機で複数のゾーンをカバーするため、ゾーン全体が比較的同じ傾向の負荷パターンであることが前提条件になります。一般に、1台の空調機に十数台のVAVが設置されますが、国内最大級の施設では1台の空調機に60台以上のVAVが設置されている事例もあります。

VAV制御の特徴と運用上の留意点
(1)給気風量と給気温度との関係
各VAVは、ゾーンごとの室内温度状況から要求風量を演算し、VAVに搭載した風速センサで風量を検知して制御します。
空調機の給気風量はVAVの要求風量の総和と計測風量の総和を比較し、インバータの周波数を制御します。給気温度は各VAVの開度条件から給気温度の設定値を可変制御します。
冷房運転時、1台以上のVAVの開度が最大開度の場合は給気温度の設定値を段階的に下げ、全台のVAVの開度が最低開度の場合は給気温度の設定値を段階的に上げていきます。
給気温度と給気風量が各VAVの運転条件から多数決判定されるということを踏まえると、1台の空調機に対するVAVの台数は可能な限り少ないほうが制御性の高い運転が可能となります。
(2)ゾーン間の室内環境が著しく異なる場合
1台の空調機で複数のゾーンをカバーするため、同一空調機のVAVのなかに1台でも著しく冷房負荷が大きいゾーンがあると給気温度が下がりすぎ、ゾーン全体の室内温度に影響を及ぼします。
その対策として対象VAVを制御から除外すると、給気温度が安定して他のゾーンの室内環境も安定します。ただし、対象ゾーンの負荷処理用に別の熱源が必要になるため、設定条件によってはハンチングやミキシングロスなどの懸念が生じます。
(3)VAVの最小風量
一般に、VAVの風速センサが検知できる最小風量は定格風量の約30%であるため、通常、VAVの下限風量は30%に設定されています。
オフィスゾーンのなかに休憩室や更衣室などの在室時間が短く、発熱負荷が少ないゾーンを含む場合、最小風量運転でも室内温度が下がりすぎることがあります。
(4)ペリメータ空調機の給気温度設定値
インテリアとペリメータに空調機がある場合、温度の設定値が大きく異なるとミキシングロスが生じる可能性があります。
ミキシングロスはペリメータとインテリア空調機の設定温度差に対して感度が大きく、ペリメータが天井吹き出しの場合、吹き出した温風が床まで届かずに天井を伝ってインテリア系統に吸い込まれ、冷房要求を出す可能性があります。
インテリア側の換気回数もミキシングロスに対して感度があり、インテリア側の垂直温度勾配が大きいときはペリメータからの温風を拡散させにくくする傾向があります。
冬期運転時の有効な対策例として以下が挙げられます。
・インテリア、ペリメータともに暖房運転
ペリメータ近傍のインテリア系VAVの室内温度とペリメータ還気温度を同じ設定にする。
・ペリメータが暖房、インテリアが冷房運転
ペリメータの還気温度とペリメータ近傍のインテリア系VAVの室内温度の設定値の偏差が-2℃以内になるように設定する。
・その他
外気温度の低下に伴い、ペリメータの還気温度設定値をプラス側に補正。
(5)室内温度センサの位置
一般に、室内温度センサはレイアウト変更に対応できるように天井パネル面に設置されます。
居住者の快適性と生産性を考慮した空調を行うためには、VAVの室内温度計測値と実際の居住域との温度差を考慮した設定値で運用することが望ましいです。
例えば、あるVAVの室内温度が設定値より常に高い場合の理由として、室温センサの直下にコピー機や給湯ポットなどの発熱負荷が大きい機器が置かれているといったことがあります。この場合、センサ移設や発熱機器の移設などの対処が必要になります(表1)。
(6)大温度差制御
冷房運転時、給気温度とインバータ周波数を下げて大温度差空調による運転を行うことで、より搬送動力削減効果を高めることができます。なお、この運用については次回に詳細を取り上げます。

VAV制御システムの的確な運用
大規模オフィスビルの所有者は、VAV制御システムのことを「テナントが満足できる高い個別制御性、搬送動力削減効果による省エネ性と快適性を両立できるシステム」と認識しているかもしれません。
しかし、ゾーン間の負荷バランスやミキシングロス、温度のムラを含めた室内温度センサの位置などの制約条件もあるため、システムの特性を十分に理解した運転が必要になります。
※「設備と管理」2016年5月号に掲載
(回答者/TMES設備お悩み解決委員会)
関連記事

Column

Special

Q&A

License

License

Special

License

License