Q&A
調査分析を踏まえた電力需要増加への対応【設備の相談17】
事例で解決!
2025.05.14
相談
小規模複合用途ビルで飲食チェーン店舗の入居希望がありました。要望仕様を確認すると電気容量が大きく、このままでは変圧器の増設工事が必要になります。何とか工事を回避する方法はないでしょうか。
回答
建物所有者の困りごと
あるテナントビルで新たに営業飲食店の2店舗が入居予定となり、その新規要求電力容量は以下のとおりでした。
・飲食チェーン店A:電灯35kW+動力45kW
・夜間営業飲食店B:電灯45kW+動力60kW
これに伴い、テナントビルの所有者が電気主任技術者に確認したところ、図1に示すように既存の受変電設備に以下の改修が必要となった。
①75kV・Aの動力変圧器の増設
②VCB(高圧真空遮断器)への変更に伴う改修工事(上位のLBS(高圧交流負荷開閉器)は変圧器設備容量の300kV・Aを超えるため)
新たに2店舗のテナントが入居することは喜ばしいが、その対応に工期と高額な更新改修費用がかかることになってしまいます。これを何とか回避しつつ、新規テナントの要望に応えたいというのが建物所有者の希望でした。

対象テナントビルの概要
対象となるテナントビルの概要を以下に示します。
・所在地:東京23区内 ・階数 地下1階、地上9階
・延床面積:1656m2 ・建物用途:複合用途ビル
電気設備の使用現状調査
建物所有者が希望しているとおりに増設改修工事を回避する方法としては、一般に既存の電気系統からの分岐や配線の盛り替えが考えられます。その場合、単純に切り替えてしまうと入居後に大きなトラブルを抱えることにつながりかねないため、一時的に高負荷になる回路を見極めるなど、慎重に検討する必要があります。
そこで、まずは電力会社から発行されている過去1年間のデマンド値と使用量のデータを収集するとともに、電気主任技術者が保管している5年分の記録も分析しました。
その結果、変圧器設備容量300kV・Aに対して、デマンド契約容量が157kWで、デマンド値は変圧器の設備容量の50~75%に設定することが多いことから、全体的に余裕があることがわかりました。
また、2月25日(暖房時期)から1カ月間、各変圧器に電力測定器を設置してピーク電力を測定し、現状の各変圧器負荷が以下のとおりであることが把握できました。
・T1(3φ75kV・A):最大電力55kW、稼働率73%
・T2(1φ75kV・A):最大電力30kW、稼働率40%
・T3(3φ150kV・A):最大電力50kW、稼働率33%
ちなみに、現在の幹線系統は図1のとおり、動力用変圧器150kV・Aと75kV・Aが各1台、電灯用変圧器75kV・Aが1台という構成なのですが、電気月報と単線結線図から負荷を確認したところ、動力75kV・Aで1階を除くビル全体をまかない、動力150kV・Aで1階の飲食店をまかなうというバランスの悪い状況でした。
この点について電力設備機器リストで調べてみると、1階の飲食店で使用している2台のガス給湯器(44kW×2=88kW)が、あとから追加されて157.3kWと記載されていました。
このことから、以前に75kV・Aの動力変圧器を増設したときに、既存の150kV・Aの動力変圧器で1階の動力を、75kV・Aの動力変圧器でほかの動力を、それぞれまかなうように電気主任技術者が変更したことが判明しました。
解決策の実施
これらの調査結果を踏まえると、今回、入居を計画している夜間営業の飲食店Bが必要とする電力量は「電灯45kW+動力60kW」ですが、17時の開店であることからピークシフトが可能であり、盛夏の冷房負荷にも余裕を持って対処できることがわかりました。
そこで、図2に示すようにVCBや変圧器の新規導入は行わず、動力変圧器75kV・Aと動力変圧器150kV・Aからの盛り替え工事のみで対応することとしました。建物所有者に提案して、承認後、工事に着手しました。
現場の調査測定と分析により、入居者の要望する電力量の確保と賃貸料の増収はもちろん、工期の短縮や工事費の削減が実現しました。

※「設備と管理」2016年4月号に掲載
(回答者/TMES設備お悩み解決委員会)