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安全管理のキーワードを詳細解説!【技術士のHOTワードWeb 第22回】
「総合技術監理部門」の合格につながる
2026.05.11
第22回
スマート保安、OTセキュリティ、同調バイアス、機能安全、標準作業手順書(SOP)、確率論的リスク評価
技術士における21の技術部門のなかで、一線を画すカテゴリーである総合技術監理部門。時々刻々と変化する最新テクノロジーの知識を吸収する専門性だけでなく、さまざまな分野を総合的に判断できるマネジメント能力も求められる。まさに、スキルアップのために取得する部門だ。
本連載は、総合技術監理部門の試験に必要な「キーワード集」(文部科学省が公表)のなかから、HOTなキーワードを徹底解説するものである。今回は、安全管理分野から6つのキーワードを取り上げる。これらはキーワード集2026で追加されたキーワードである。
(1)スマート保安
社会安全の観点における「スマート保安」とはIoT、AI、ドローン、ビッグデータ解析などの先端技術を導入することで、産業インフラや国民生活の安全を、より高度かつ効率的に維持する仕組みを指す。
高度経済成長期に整備された日本のインフラが老朽化している。労働力不足が深刻化するなかで、従来の「人の目と経験」に頼る保安体制からの脱却は急務である。以下に、その主要な側面を記述する。
①スマート保安の核となる技術
スマート保安の核となる技術を表1に示す。スマート保安は、ただの自動化ではなく、データの可視化と予測に基づいた意思決定を可能にする。

②社会安全にもたらすスマート保安の恩恵
スマート保安の推進は、企業のコスト削減にとどまらず、公共の安全に直結する。スマート保安の恩恵を表2にまとめる。

③スマート保安の今後の課題と展望
技術の実装には、いくつかの壁も存在する。スマート保安の課題を表3にまとめる。
スマート保安は技術による「安全のデジタルトランスフォーメーション(DX)」である。人口減少社会において、国民が安全、安心な生活を享受し続けるためには、従来の精神論や慣習に依存せず、科学的データに基づく新しい保安の姿を社会全体で受容していく必要がある。

(2)OTセキュリティ
OT(Operational Technology、制御技術)セキュリティとは工場、発電所、鉄道、水道といった社会インフラや製造現場を支える「産業制御システム」をサイバー攻撃から守ることを指す。
従来のITセキュリティが「情報の機密性」を最優先するのに対し、OTセキュリティは「システムの可用性(稼働し続けること)」と「物理的な安全性」を最優先する点に大きな特徴がある。
①ITセキュリティとの違い
OT環境は、IT環境とは異なる独自の制約や優先順位を持っている。2つの相違点を表4にまとめる。

②なぜ、いま、OTセキュリティが重要なのか
工場の制御システムは、かつては外部ネットワークから切り離された「物理的な隔離(エアーギャップ)」によって守られていた。しかし、近年、その前提が崩れている。表5にOTセキュリティの重要な理由を示す。

③OTセキュリティ特有の対策
OT環境では「ウイルス対策ソフトを入れて終わり」という手法は通用しない。制御用機器のスペック不足や、誤検知によるライン停止を避ける必要があるからだ。OTセキュリティ特有の対策を表6に示す。

OTセキュリティの不備は、単純にデータの損失にとどまらず、工場の操業停止による巨額の損失、爆発事故や有害物質の流出といった人命、環境への壊滅的なダメージを招くおそれがある。
スマート製造が当たり前となる現代において、OTセキュリティは経営上の最重要リスクのひとつとして考えるべき課題である。
(3)同調バイアス
同調バイアスは中項目キーワード「リスク認知のバイアス」の小項目のひとつとして、キーワード集2026で追加されたキーワードである。
同調バイアス(Peer Pressure Bias、Conformity Bias)とは、自分自身の判断よりも、周囲の人間や集団の行動、意見に合わせようとする心理的傾向のことである。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という言葉に象徴されるように、たとえ客観的にみて危険な状況であっても、他者が平然としているのをみると「自分も大丈夫だろう」と思い込んでしまうバイアスを指す。
①同調バイアスが発生するメカニズム
人間は社会的な動物であり、集団から孤立することを本能的に避ける性質を持つ。このため、リスクに直面したとき、表7に示す心理が働く。

②災害時における危険性
同調バイアスが最も深刻な被害をもたらすのは、表8に示すような火災や津波などの緊急事態においてである。

③同調バイアスを打破するための対策
このバイアスを個人の意思の力だけで克服するのは困難である。組織や社会レベルでの仕組みづくりが不可欠となる。同調バイアス打破の対策例を表9にまとめる。

同調バイアスは、平時には集団の和を保つ機能を持つが、非常時には生存を脅かす最大の障壁となる。「周りが動かないから安全」なのではなく、「周りも自分と同様に、バイアスによって動けなくなっているだけかもしれない」という視点を持つことがリスク管理における第一歩である。
同調バイアスは含まれないが、バイアスについての過去問題を表10に示す。

(4)機能安全
事故や災害を未然に防ぐための安全設計の考え方は、大きく「本質安全」と「機能安全」の2つに分けられる。キーワード集2026で大項目「本質安全化」が「本質安全」に変更され、その後に同じく大項目の「機能安全」が追加された。
機能安全(Functional Safety)とは監視装置や制御システムなどの「機能」によって、許容できないリスクを低減し、安全を確保するという考え方である。
①機能安全の定義
機能安全とは「電気、電子、プログラマブル電子(E、E、PE)系の故障に起因する制御機能の不全によって生じるリスクを、適切な方法で許容可能なレベルまで低減すること」を指す。機能安全の概念を体系化した基本的な国際規格は、国際電気標準会議が定めたIEC61508である。
従来の「本質安全」が鋭利な部分にカバーをつけたり、有害な物質を使わなかったりといった「構造そのものの安全性」を追求するのに対し、機能安全は「もし、故障しても、システムが安全に停止、作動するように制御する」というアプローチをとる。
②踏切の安全確保の例
両者の違いを、踏切の例として表11に示す。

③安全基準とSIL(安全整合性レベル)
機能安全を実現するためには、国際規格であるIEC61508(一般産業用)やISO26262(自動車用)に基づいた設計が求められる。
これらの規格ではSIL(Safety Integrity Level)という指標が用いられる。SILは1から4までの段階があり、数字が大きいほど高い安全信頼性が要求される。
④なぜ、機能安全が必要なのか
現代の製品やプラントは複雑化し、物理的な対策(本質安全)だけではコストや技術の面で限界がある。表12に機能安全が必要な理由を挙げる。
機能安全は、ただ「故障しない装置」をつくることではなく、「故障しても安全を維持する仕組み」を構築する技術である。

⑤機能安全についての過去問題
「機能安全」についての過去問題を表13に示す。

(5)標準作業手順書(SOP)
標準作業手順書(Standard Operating Procedure)とは、ある業務を最適かつ均一に遂行するために、その手順や条件、留意事項を詳細に記述した文書である。
組織において「誰が、いつ、どこで行っても、同じ品質の結果が得られること」を目的として作成される。
①SOPを導入する主な目的
SOPの導入は、ただのマニュアル化を超えた価値を組織にもたらす。主な目的を表14に示す。

②SOPの構成要素
効果的なSOPには一般に表15に示す要素が含まれる。

③効果的なSOPを作成するためのポイント
形骸化したSOPにしないためには、作成時に表16に示す点について留意すべきである。
SOPは組織の「知の共有」を象徴するツールである。正しく運用されるSOPは、ただの規則ではなく、現場の混乱を避け、効率を最大化するための強力な武器となる。

(6)確率論的リスク評価
確率論的リスク評価はキーワード集2020から存在した中項目「原子力防災」の小項目としてキーワード集2026で追加された。
筆者が「リスク=発生確率×影響度」という考え方を知ったのは1990年代にプロジェクトマネジメントにおけるリスクの特定、評価、対策計画に用いるためであった。原子力発電や航空宇宙産業などの巨大システムのリスク評価において使われ始めたのは1970年代である。その基礎となったのは数百年にわたる数学(確率論)と経済学(期待効用理論)であった。
①原子力防災における確率論的リスク評価
原子力防災における確率論的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment)は原子力施設と、その設置地域において「どのような事故が起こり得るか」「それが、どの程度の頻度で発生するか」「その影響は、どれくらいか」を科学的、統計的なデータに基づいて数値化する手法であり、これを愚直に行うべきである。
原子力防災におけるリスク評価となる対象と評価内容の例を表17に示す。

②確率論的リスク評価の手法
PRAは「システム安全工学手法」である「イベントツリー分析(ETA)」と「フォールトツリー分析(FTA)」などの論理的手法を組み合わせて行われる。
③防災における確率論的リスク評価の意義と限界
確率論的リスク評価の意義を表18に、限界(不確かさ)を表19にそれぞれ示す。
例えば、日本史に残るマグニチュード8.0以上の地震は100~150年周期で繰り返されている。2011年に発生した東日本大震災は、原子力発電所が設置されて以降、初めての巨大地震といえる。確率論的リスク評価は「絶対的な安全」を盲信するのではなく、「リスクはゼロではない」という前提に立ち、そのリスクを、いかに低減させるかを論理的に導き出すための知的な枠組みである。目先の利益などの影響を受けてはならない。


今回は2025年11月に文部科学省が公表した総合技術監理キーワード2026で追加された安全管理分野の6つのキーワードを取り上げた。追加キーワードは以降の試験で出題されることがあるので、このコンテンツが試験勉強の一助になれば幸いである。
[参考]
「目で見る機能安全」
神余 浩夫著、一般財団法人日本規格協会、2017年
文/南野 猛(技術士:情報工学、総合技術監理)
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