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人的資源管理と情報管理のキーワードを詳細解説!【技術士のHOTワードWeb 第21回】
「総合技術監理部門」の合格につながる
2026.03.13
第21回
障害者差別解消法、対人能力(コーチング、ネゴシエーション、ファシリテーション、合意形成、カウンセリング)、大規模言語モデル(LLM)、オープンデータ、官民データ活用推進基本法、デジタルライツ、マイナンバー法、ITセキュリティ評価及び認証制度(JISEC)、サイバー安全保障
技術士における21の技術部門のなかで、一線を画すカテゴリーである総合技術監理部門。時々刻々と変化する最新テクノロジーの知識を吸収する専門性だけでなく、さまざまな分野を総合的に判断できるマネジメント能力も求められる。まさに、スキルアップのために取得する部門だ。
本連載は、総合技術監理部門の試験に必要な「キーワード集」(文部科学省が公表)のなかから、HOTなキーワードを徹底解説するものである。今回は、人的資源管理分野から2つ、情報管理分野から7つのキーワードを取り上げる。これらはキーワード集2026で追加されたキーワードである。
(1)障害者差別解消法
障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)はキーワード集2026において、大項目「労働関係法」の中項目の1つとして追加された。すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しあいながら共生する社会の実現を目指し、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、2つの柱から構成されている。
①不当な差別的取扱いの禁止
国や地方自治体の行政機関などと事業者が、正当な理由なく障害を理由としてサービスなどの提供を拒否したり、制限したり、障害のない人にはつけない条件をつけたりすることを禁止している。
例として、車いすを利用していることを理由に入店を断る、障害があることを理由にアパートの契約を拒否するなどを禁止している。
②合理的配慮の提供
行政機関等および事業者は、障害のある人から社会的障壁(バリア)の除去を必要としているという意思の表明があった場合、その実施に伴う負担が重すぎない範囲で社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
例として、段差がある場所にスロープを設置する、筆談や読み上げで情報を伝える、試験時間を延長するなどの合理的配慮を提供しなければならない。
2024年4月1日からの法改正による重要な変更点として、これまで努力義務であった民間事業者の「合理的配慮の提供」が義務化された。これにより、国や地方自治体だけでなく、一般の企業や店舗、個人事業主も法的義務を負うこととなった。
③障害者差別解消についての過去問
障害者差別解消法についての過去問は出題されていないが、キーワード集2025まで存在した「障害者雇用促進法」についての過去問を表1に示す。

(2)対人能力(コーチング、ネゴシエーション、ファシリテーション、合意形成、カウンセリング)
初発のキーワード集2019から大項目「人的資源開発(HRD)」に存在していた「対人能力」に、大項目「コミュニケーション技法」からカッコ内の4つの中項目が移ってきた。これにカウンセリングを加えて解説する。
対人能力を構成する5つのスキル(コーチング、ネゴシエーション、ファシリテーション、合意形成、カウンセリング)は、いずれもコミュニケーションを基盤としているが、その目的と関係性において明確な違いがある。それぞれの概要、アプローチと視点を以下に記述する。
①コーチング(Coaching)
相手の自発的な行動を促し、目標達成や能力開発を支援する手法である。
・アプローチ
「答えは相手のなかにある」という前提に立ち、問いかけ(質問)や傾聴を通じて相手の気づきを引き出す。
・視点
未来志向であり、パフォーマンスの向上や成長に焦点をあてる。
②ネゴシエーション(Negotiation)
利害が対立する当事者間で互いに譲歩や条件提示を行い、双方が納得できる着地点を見出す交渉術である。
・アプローチ
自分の要求を通すだけでなく、相手のニーズも把握し、等価交換や代替案の提示を行う。
・視点
価値の分配、あるいは「三方よし」のような価値の創造を目指す。
③ファシリテーション(Facilitation)
会議やプロジェクトなどの集団活動において、中立的な立場から発言を促し、円滑な進行をサポートする技術である。
・アプローチ
場の空気をつくり、発散(意見出し)と収束(整理)をコントロールして、議論の質と効率を高める。
・視点
チーム内の相互理解とプロセス(過程)の最適化に焦点をあてる。
④合意形成(Consensus Building)
多様な意見や利害を持つ人々の間で、最終的な意思決定に対する「納得感」をつくり上げるプロセスである。
・アプローチ
単純に多数決ではなく、対話を通じて反対者の懸念を解消し、全員が許容できる結論を導き出す。
・視点
決定事項に対する当事者意識(コミットメント)の向上と、長期的な関係維持を重視する。
⑤カウンセリング(Counseling)
悩みや心理的な課題を抱える人に対し、専門的な知識を用いて心の安定や問題解決を支援する手法である。
・アプローチ
共感的な理解と受容を基本とし、相手の感情を整理しながら、自己回復力を高めるサポートを行う。
・視点
過去の経験や現在の感情に焦点をあて、心理的ウェルビーイング(良好な状態)の回復を目指す。
これらの5つのスキルは、例えば「ファシリテーションの過程で合意形成を図る」といったように組み合わせて活用されることが多い。各スキルの比較表を表2に示す。
また、対人能力スキルについての過去の出題を表3に示す。


(3)大規模言語モデル(LLM)
生成AIの基幹技術である大規模言語モデル(Large Language Model)は、膨大なデータと計算資源を用いて、人間のように自然な言語処理を実現するAIモデルである。
・生成AIとの関係
生成AIという広義のカテゴリー(画像、音声、動画生成を含む)のなかで、特に「テキストの理解と生成」を追求した頭脳の役割を果たすのがLLMである。
・「大規模」が意味するもの
学習に使われるデータの量(数兆トークン)と、モデルの複雑さを示すパラメータ数(数千億~数兆個)がケタ違いに多いことを意味する。トークンは、英語では1単語≒1トークンであるが、「friendship」などは「friend+ship」の2トークンになる。複雑な日本語では1文字が1トークン以上になる。
②トランスフォーマーと次単語予測の仕組み
現在のLLMのほとんどは、トランスフォーマー(Transformer)というアーキテクチャを採用している。LLMの主要な技術を表4に示す。

③主要な構成要素のスケーリング
LLMの性能は表5の3要素を増大させることで飛躍的に向上することが知られている。これをスケーリング則という。

④LLMの動向と課題
LLMは急速な進化を続けているが、いくつかの重大な転換点に直面している。
・データの枯渇
AIの学習に利用できる高品質な人間由来のテキストデータが底をつきつつあるという問題である。これにより、ただの「量の拡大」から、データの質を高める「合成データの活用」や「学習効率の向上」へと開発の焦点が移っている。
・ハルシネーション(Hallucination)
もっともらしいウソをつく現象のことである。LLMは、あくまで「確率的な予測機」であり、真実を理解しているわけではないため、不正確な情報を生成するリスクが常に存在する。
・ローカルLLMの台頭
巨大なクラウドサーバーを介さず、個人のPCや社内サーバー(オンプレミス、On-premises)で動作する比較的小型で高性能なモデル(Llama系やQwen系など)の活用が進んでいる。これは機密情報の保護やコスト削減の観点から注目されている。
(4)オープンデータ
情報分析や情報活用におけるオープンデータとは、政府や地方自治体、公共機関、あるいは企業などが保有するデータのうち、だれもが自由に利用、再配布、加工ができる形で公開されたデータのことを指す。
ただ「公開されている」だけでなく、機械判読に適した形式(CSV、JSON、XMLなど)であり、なおかつ、二次利用を認めるルール(クリエイティブ・コモンズなど)が適用されている点が大きな特徴である。
①オープンデータの情報分析における役割
情報分析において、オープンデータは「外部環境」を客観的に把握するための不可欠なリソースとなる。オープンデータの3つの役割を表6に示す。

②オープンデータの情報活用における価値
収集、分析されたオープンデータは、表7に示す新たな価値創造の源泉として活用される。

オープンデータは単純に「無料の資料」ではなく、「データ駆動型社会のインフラ」である。これを自組織のデータと、どう組み合わせ、どのようなインサイト(Insight、本質的な洞察)を導き出すかが現代の情報活用における勝負どころとなっている。
(5)官民データ活用推進基本法
官民データ活用推進基本法はIT基本法の理念を継承しつつ、データ活用を社会基盤として定着させるために2016(平成28)年12月に施行された法律である。
デジタル社会の「読み、書き、そろばん」ともいえるデータの利活用を促進し、国民が安全で便利な生活を送れる社会の実現を目指している。
①法律の目的と基本理念
本法は急速に進化する情報通信技術(ICT)に対応し、国、地方自治体、民間事業者が連携してデータを有効活用することで表8の各項目の達成を目的としている。

②主な義務と役割
この法律の特徴は表9に示す主体ごとに具体的な役割を定めている点にある。

③重点施策の4つの柱
行政や社会の在り方を根本から変えるため、表10の4項目が重点的に掲げられている。

④期待される効果
この法律が機能することで、少子高齢化に伴う労働力不足の解消(AIやIoTの活用)、災害時の迅速な情報共有、さらにはパーソナライズされた行政サービスの提供などが期待されている。ここにおいて「パーソナライズ」は「だれにでも開かれた公共のデータ」を「個人の特定の状況やニーズ」に合わせて最適化して届けるプロセスを指す。
(6)デジタルライツ
デジタルライツ(Digital Rights、デジタル上の権利)とは、インターネットやデジタル技術の普及に伴い、われわれがデジタル空間においても現実世界と同様に享受すべき基本的人権のことである。
デジタルライツは、ただのITのルールではない。テクノロジーが生活に浸透した現代において、個人の尊厳を守るための「デジタル時代の生存権」ともいえる不可欠な概念である。
①デジタルライツの定義
デジタルライツは従来の「表現の自由」や「プライバシー権」をデジタル環境に拡張した概念である。国連においても「人々がオフラインで持つ権利はオンラインでも保護されなければならない」という原則が確認されている。
②主な構成要素
デジタルライツがカバーする範囲は多岐にわたるが、主に表11に示す3点が柱となる。

③現代におけるデジタルライツの課題
テクノロジーの進化に伴い、表12に示す新たな課題(リスク)も浮き彫りとなっている。

(7)マイナンバー法
マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)の概要は以下のとおりである。
①目的
行政運営の効率化、国民の利便性の向上、公平、公正な社会の実現を目的としている。複数の機関に存在する個人の情報を同一人物のものとして正しくひもづけるためのインフラとして機能する。
②制度の3本柱
本法は表13に示す3つの要素によって構成されている。

③利用範囲の原則と拡大
当初、マイナンバーの利用は「社会保障」「税」「災害対策」の3分野に限定されていたが、相次ぐ法改正により、表14に示すように現在では範囲が大幅に拡大している。

④マイナンバーカードの役割と進化
カードは対面およびオンラインにおける本人確認の「最高位の身分証明書」として位置づけられている。マイナンバーの主要な進化を表15に示す。

⑤個人情報の保護措置
特定個人情報の慎重な取り扱いを期するため、表16に示す厳格な保護措置が定められている。

(8)ITセキュリティ評価及び認証制度(JISEC)
ITセキュリティ評価及び認証制度(JISEC:Japan Information Technology Security Evaluation and Certification Scheme)はIT製品のセキュリティが適切に設計、実装されているかを客観的に評価し、認証する日本の国家制度である。
①制度の目的と枠組み
JISECは政府機関や民間企業がセキュリティ機能の備わったIT製品(ハードウエア、ソフトウエア)を調達するとき、その信頼性を保証することを目的としている。表17に枠組みの概要を示す。
日本は国際的な枠組みである「IT製品セキュリティ評価のための共通基準に関する承認(CCRA:Common Criteria Recognition Arrangement)」に加盟しているため、JISEC認証は加盟国間でも有効となる。

②認証までのプロセス
本制度は開発者、評価機関、認証機関の3つのプレイヤーによって構成される。表18に認証までのステップを示す。

③評価の指標(ST、EAL)
JISECでは製品ごとに以下の2つの要素を用いて評価を行う。
・ST(Security Target)
その製品が「どのような脅威に対し、どのようなセキュリティ機能を提供するか」を定義した仕様書。
・EAL(Evaluation Assurance Level)
評価の厳密さを表す「保証レベル」。EAL1からEAL7までの段階があり、数字が大きいほど評価の手順が厳格になる。
④対象となる主な製品
主に以下のようなセキュリティ機能が重要視されるIT製品(複合機(コピー、プリンタ)、ICカードおよびICチップ、ファイアウォールや不正侵入検知/防止システム(IDS/IPS:Intrusion Detection System/Intrusion Prevention System)などのネットワーク機器、データベース管理システム(DBMS)など)が対象となる。
⑤制度を利用するメリット
表19に開発者側、利用者側の制度利用のメリットを示す。

(9)サイバー安全保障
サイバー安全保障とは国益を揺るがすようなサイバー攻撃から、国家の安全、公共の安寧、国民の生命や財産を守るための取り組みや体制を指す。従来の「情報セキュリティ」が個別の企業や組織のデータ保護を主眼としていたのに対し、サイバー安全保障は国家レベルの防衛、安全保障の一環として考えるのが特徴である。
①対象となる主な脅威
サイバー安全保障が防ぐべき対象は金銭目的の犯罪にとどまらない。代表的な脅威を表20に示す。

②主要な3つの柱
現代のサイバー安全保障戦略は主に表21の3要素で構成される。

③日本における現状と課題
日本政府は「国家安全保障戦略」において、サイバー安全保障を最重要課題の1つに位置づけている。表22に日本の現状と取り組みを示す。
サイバー空間は陸、海、空、宇宙に続く「第5の戦域」と呼ばれている。物理的な国境が存在しない空間では、平時と有事の境界が極めて曖昧であり、官民が一体となった継続的な警戒と技術革新が不可欠である。

今回、ここで取り上げた情報管理分野の7つの新規キーワードに関連する過去問題を表23に示す。2025年11月に文部科学省が公表した総合技術監理部門キーワード集2026で追加された人的資源管理分野の2つのキーワードと、同じく情報管理分野の7つのキーワードを解説した。追加キーワードは以降の試験で出題されることがあるので、このコンテンツが試験勉強の一助になれば幸いである。

[参考]
「これならわかる〈スッキリ図鑑〉障害者差別解消法 第2版」
二本柳 覚著、株式会社翔泳社、2024年
「LLMとハルシネーション 基礎と対策」
橘 秀幸著、株式会社オーム社、2025年
文/南野 猛(技術士:情報工学、総合技術監理)
このシリーズ
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