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人的資材管理のキーワードを詳細解説!【技術士のHOTワードWeb 第19回】
「総合技術監理部門」の合格につながる
2025.12.22
第19回
労働基準法、労働組合法、労働関係調整法、個別労働紛争解決促進法、労働審判法、最低賃金法、労働安全衛生法、パートタイム・有期雇用労働法
技術士における21の技術部門のなかで、一線を画すカテゴリーである総合技術監理部門。時々刻々と変化する最新テクノロジーの知識を吸収する専門性だけでなく、さまざまな分野を総合的に判断できるマネジメント能力も求められる。まさに、スキルアップのために取得する部門だ。
本連載は、総合技術監理部門の試験に必要な「キーワード集」(文部科学省が公表)のなかから、HOTなキーワードを徹底解説するものである。今回は、人的資材管理の分野から8つのキーワードを取り上げる。従業員の安全と健康を守るために、労使は労働関係法を理解する必要がある。各法の概要を解説し、関連する総監試験過去問の一部を示す。
(1)労働基準法
労働基準法は「労働者は人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき」を基本理念とし、労働条件は使用者と労働者が対等な立場で決定すべきと定めている。主な内容は賃金、労働時間、休憩、休日、年次有給休暇、解雇の制限、災害補償などで、労働者の権利を保護している。これらの基準を下回る労働契約は無効となり、その部分は法律の基準が適用される。違反した使用者には罰則が科せられる。
①法定労働時間
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限である。原則として1日に8時間、1週間で40時間を超えて労働させてはいけない。
②労使協定
労使協定は使用者(会社)と労働者の過半数で組織された労働組合、または労働者の過半数の代表者との間で締結される書面による協定である。労働条件や会社のルールを定めるためのもので、時間外および休日労働(36協定)や変形労働時間制の導入などである。
③年次有給休暇
雇い入れの日から6カ月勤続した労働者に付与される賃金が支払われる休暇である。
④労働契約
労働者が使用者の指揮命令の下で労働(労務の提供)を行い、使用者がそれに対して賃金(報酬)を支払うことについて、両者(労使)が合意することによって成立する契約である。
⑤就業規則
労働時間や賃金などの労働条件、職場内の服務規律について定めた、事業場における規則集である。
⑥災害補償
労働者が業務上で負傷、疾病にかかった、または死亡した場合に、使用者(会社)が負う補償責任を指す。
⑦三六協定
労働基準法第36条に基づき、法定労働時間を超えて、または法定休日(週1回)に労働させる場合に、使用者と労働者側の代表との間で締結される労使協定である。
⑧労働基準法についての過去の出題
労働基準法についての過去問題を表1に示す。

(2)労働組合法
労働組合法は日本国憲法第28条で保障された労働三権を具体的に保障するために制定された法律で、労働基準法、労働関係調整法と並ぶ「労働三法」のひとつである。
労働組合法の主な目的と内容を表2に示す。

①労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)
日本国憲法第28条で保障された、労働者が使用者と対等な立場で交渉するための基本的な権利である。労働三権の概要を表3に示す。
これらは経済的に弱い立場にある労働者を保護し、労働条件の維持、改善を通じて労使関係の民主化を図ることを目的としている。これらの権利を実効性のあるものにするため、労働組合法などの法律が整備されている。

②労働組合
労働者が主体となり、労働条件の維持および改善や経済的地位の向上を図ることを主な目的として組織する団体である(労組法第2条)。これは労働者の団結権を具体化する組織であり、使用者と団体交渉を行い、労働協約を締結する主体となる。その結成や活動は労働組合法により法的な保護を受け、民主的な運営が求められる。
③不当労働行為
使用者が労働者の労働三権を侵害する行為を指す(労組法第7条)。具体的には組合員を理由とする不利益な取り扱い、正当な理由のない団体交渉の拒否、組合の運営を支配、介入する支配介入などが含まれる。これらの行為は法律で禁止され、労働委員会に救済を申し立てることができる。
④労働協約
労働組合と使用者との間で締結される、労働条件や組合活動に関する事項などを定めた書面による合意である(労組法第14条)。労働協約に定める基準に反する労働契約の部分は無効となり(規範的効力)、協約の定めが優先される。一定の要件を満たすと、その効力が非組合員や同種の労働者にも拡大する場合がある。
⑤労働委員会
労働者、使用者、公益を代表する委員で構成される行政機関である(中央、都道府県)。主な役割は不等労働行為の審査、救済命令、労働争議のあっせん、調停、仲裁(労働関係調整法に基づく)、労働組合の資格審査などである。公正中立な立場で、労使間の紛争解決と健全な集団的労使関係の安定を図る。
⑥労働組合法についての過去の出題
労働組合法についての過去問題を表4に示す。

(3)労働関係調整法
労働争議の公正な調整を図り、労使関係の平和的維持と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律である(労調法第1条)。団体交渉が円滑に進まず、労使間の対立が激化したときに、労働委員会が中立的な立場からあっせん、調停、仲裁といった手法を用いて紛争の解決を支援する手続きを定めている。
①争議行動
労働関係の当事者である労働組合や労働者が、その主張を貫徹するために、業務の正常な運営を阻害する行為、または使用者が、これに対抗するために行う行為を指す(労調法第7条)。具体的にはストライキ(同盟罷業)、サボタージュ(怠業)、ピケッティング、ロックアウト(工場閉鎖)などが該当する。
②あっせん、調停、仲裁
労働争議の解決を図るために労働委員会が行う代表的な紛争調整の手続きである。これらの内容を表5に示す。

(4)個別労働紛争解決促進法
この法律は解雇、賃金未払い、いじめ、ハラスメントなど、個々の労働者と使用者との間で発生する個別労働紛争について、裁判によらない迅速かつ適切な解決を促進することを目的としている。労働者が使いやすい行政的な解決システムを提供することで、紛争の長期化を防ぐことができる。
主な解決手段として、都道府県労働局長による助言、指導(当事者の求めに応じて紛争解決に必要な法的な情報や考え方と示す)と、紛争調整委員会によるあっせん(中立、公正な第三者が間に入り、双方の主張を調整して合意を促す)の制度を定めている。あっせんは手数料無料、非公開で行われるため、当事者が利用しやすいのが特徴である。
この法律は多様化する職場のトラブルに迅速に対応し、労働者の権利保護と労使関係の安定を図るための基盤となっている。個別労働紛争解決促進法についての過去問題を表6に示す。

(5)労働審判法
労働審判法は個別の労働紛争、特に解雇の有効性、賃金未払い、ハラスメントによる損害賠償など、金銭の支払いをめぐる紛争を迅速かつ適正に解決することを目的としている。この手続きは裁判所に設けられた労働審判委員会(裁判官である労働審判官1名と、それぞれ労使の専門家である労働審判員2名)が行う。
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結させることを目指し、短期間での解決が期待できる。委員会は、まず、調停による解決を試み、話し合いがまとまらない場合に事案の実情と衡平の理念に基づいた審判(仮の決定)を行う。当事者が審判に異議を申し立てなければ、審判は確定判決と同一の効力を持つ。裁判に比べて時間と費用が節約できる、紛争解決の主要な手段のひとつである。
労働審判法についての過去問題を表7に示す。

(6)最低賃金法
この法律は国が賃金の最低額(最低賃金)を定めることにより、労働条件の改善を図り、労働者の生活の安定と労働力の質の向上、ひいては国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている(第1条)。
最低賃金には特定の産業の労働者を対象とする特定(産業別)最低賃金と、すべての労働者に適用される地域別最低賃金の2種類がある。使用者は労働者に対し、この法律で定められた最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。もし最低賃金を下回る労働契約を締結しても、その部分は無効となり、最低賃金額と同額の定めがあったものとみなされる。最低賃金額は最低賃金審議会の意見を聴いて、公的な手続きを経て決定され、違反した使用者には罰則が適用される。
(7)労働安全衛生法
労働安全衛生法は職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする法律である。事業者に労働災害を防止するための危険防止基準の確立や、責任体制の明確化、自主的な活動の促進などの措置を講じることを義務づけている。
具体的な措置として、機械設備や危険物に関する安全基準の設定、作業主任者の選任、定期的な健康診断の実施と事後措置、作業環境測定などが定められている。特に、一定規模以上の事業場には安全管理者や衛生管理者の選任、安全委員会や衛生委員会の設置を義務づけ、組織的な安全衛生管理体制の確立を求めている。この法律は労働者にとって安全で健康に働ける環境を法的に保障する、労働保護の根幹をなすものである。
労働安全衛生法についての過去問題を表8に示す。

(8)パートタイム・有期雇用労働法
初発のキーワード集2019ではパートタイム労働法として登場している。キーワード集2022からはパートタイム・有期雇用労働法となっている。
パートタイム・有期雇用労働法は正式名称を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」といい、正社員(通常の労働者)とパートタイム労働者、有期雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくし、「同一労働、同一賃金」を実現することを主な目的とした法律である。2020年4月(中小企業は2021年4月)から施行された。この法律の主な内容を①~④に示す。
①不合理な待遇差の禁止
正社員とパート・有期労働者の間で基本給、賞与、各種手当(役職手当、通勤手当など)、福利厚生(休憩室、慶弔休暇など)、教育訓練といった、あらゆる待遇について職務内容や能力、責任などの違いに応じ、不合理な差を設けることが禁止される。
②待遇に関する説明義務の強化
事業主はパート・有期労働者を雇い入れたときなどに、正社員との待遇差の内容や理由について説明することが義務づけられた。労働者が説明を求めた場合にも、これに応じる必要がある。
③裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備
行政ADR(Administrative Alternative Dispute Resolution)とは、行政機関が主体または関与して提供する、裁判によらない紛争解決手続き(ADR)の総称である。労働者と事業主との間で紛争が発生した場合、裁判によらず、行政による無料、非公開の調停やあっせんなどの手続きを利用できる。
④その他の重要な事項、労働条件の明示義務
パートタイム労働者に対し、雇い入れ時に「昇給の有無」「賞与の有無」「相談窓口」を文書の交付などで明示することが義務づけられている。
この法律は多様な働き方を選択する労働者が、その能力を有効に発揮し、納得して働けるようにすることを目指している。パートタイム・有期雇用労働法についての過去問題を表9に示す。

読者の多くは法律の専門家ではないと推察する。筆者も同じである。法律は、どうしても禁止、制約、義務や責務などを法文化することになる。今回、取り上げた法律は立場の弱い労働者を守ることを目的としている。これを念頭に置くと解ける問題が多い。
技術者も社会、企業や団体の一員である。法の精神に基づいて労使双方も、新人もベテランも、多様な人々も幸せにする職場の環境や雰囲気の構築に、前向きに取り組んでいきたい。
[参考]
「労働基準法がよくわかる本’25~’26年版」
下山 智恵子著、成美堂出版株式会社、2025年
文/南野 猛(技術士:情報工学、総合技術監理)
このシリーズ
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