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The電気工事士
電気工事の求道者たち
2026.05.15
電気工事士の仕事
電気を扱う資格において、電気工事士ほど建設の現場に深く関係してくるものはない。その名称が示すとおり、建築物に生命を宿す「電気工事」が主な仕事だ。
電気分野のライセンスとして登竜門に挙げられる電気工事士。特に、第二種は全国の工業高校で取得を推奨されている。これをキッカケに電気工事施工管理技士、電気主任技術者へとステップアップしていくのだが、この第一歩こそ、ライフラインである「電気」を引き込むという極めて大切な作業を担うのだ。
トーマス・エジソンは「必要は発明の母」と言った。この言葉になぞらえると、電気工事士は、すべての電気の仕事へと展開するための「必要」である。
電気の知識はもちろん、現場実務に欠かせない技能も要求される電気工事士。今回の特集は、建設の現場において「0から1」を生む電気分野のエキスパートにクローズアップ。自家用電気工作物の工事を手がける技術者は、どのようなスキルを要求されるのだろうか……。第一線で活躍する電気工事士の仕事から、その詳細に迫ってみる。


朝のルーティンは「全員作業」で情報共有
建設現場に入る工事は、当然ながら電気だけではない。建築から土木、鉄筋、配管、内装、給排水、ガラス、塗装など、さまざまなフィールドの工事が入り組み、1つの建物を造っていく。そこにはスケジュールがあり、ルールがあり、数多くのリスクが存在する。
そのため、セキュリティの観点から実現場での撮影を断念。当日は研修センターの設備を用いて、VCT(特高用の電力需給用計器用変成器)の交換作業を中心に、電気工事士として日下部さんが従事している仕事をレポートする。
日下部さんが所属する配電工事グループの朝は早い。建設現場の時間軸で動くため、場所によっては7時に出発することもある。
通常、始業は8時30分。朝のルーティンとして「ラジオ体操」を実施し、ミーティングで情報を共有。その後、出発に備えて「クルマの点検」と「倉庫の整理整頓」に入っていく。この2つは配電工事グループの全員が手がける基本作業で、事故や工具類の不備といったリスクの回避を徹底している。
基本作業が終了すると、班単位で出発の準備。現場によって用意する道具も異なることから、当日の作業で必要な道具をチェックしながら積み込んでいく。
始業から約1時間、手配すべき作業が完了した。




きめ細かい声出し確認で、これ以上ない安全を演出
積み込み完了後、現場へ向かう。
作業に不可欠なツールが多いため、電気分野の技術者にとってクルマの運搬力は欠かせない。数カ所の現場を移動する場合、その機動力は作業効率にも関係してくる。そのためにクルマは必要なのだが、重量のある電気機器を運搬するという作業上、運転には「準中型運転免許」(車両総重量3.5トン以上、7.5トン未満。2023年8月に新設)の所有が要求される(同社では作業長を中心に、中型運転免許を取得)。
チームメンバーの安全を最優先に、電気のノウハウからスケジュール管理、運転免許の取得まで、作業長としてプラスαの仕事が双肩にかかってくる。しかし、日下部さんは淡々と作業をこなす。それが当然であるかのように、だ。
今回の密着で驚いたことは、安全を確認するシーンの多さである。点検や更新などの電気設備に関係するときはもちろん、荷物の積み込みから運転中の右左折まで、忘れてしまいがちな細かい作業についても、真摯に声を出して確認している。これを徹底することがトラブルの少なさにつながっているのだろう。
尼崎市にある研修センターまで約30分、何度も通ってきたルートでも安全確認を怠ることはない。作業者は当然として、運搬している電気機器にも配慮した移動となったのはいうまでもない。

機器更新はチームプレー。リーダーの経験値が「安全」を生む
荷物を台車に積み、作業場へと運び入れる。通常、トラックの荷台には新しいVCTが積載され、現場への搬入作業という大仕事が組み込まれるが、今回は模擬設備での更新作業ということで省略。すぐに準備に取りかかる。
ここで、VCTの搬出作業について基本手順を紹介する。
①工具の点検
②停電(復電)操作
③検電器で無電圧を確認し、残留電荷を放電
④短絡接地器具を接地極へ取りつけ(接地極の取り外し)
⑤VCTの接続線を確認
⑥VCTの電力量計との配線を確認
⑦VCTの接続線、配線の取り外し(取りつけ)
⑧VCTの搬出(搬入)
個々の細かい手順は割愛するが、大きく8つの工程で搬出される。ただし、特高用のVCTは重量があるため(22kV対応で約180kg)、より高い注意力と集中力が求められる。作業は複数名での実施が不可欠なことから、作業長のリーダーシップが「安全」につながるといっても過言ではない。
搬出および搬入だけではない。作業者が負担のかかる体勢で作業をしていないか、体調に問題はないか、運搬ルートにリスクはないか、作業者の様子から作業場の環境まで、全体に気を配らなければならない。猛暑が必然となっている夏場は特に配慮を要する。
通常の作業では、ここから新しいVCTを搬入後(搬出と手順は逆。なお、③は「通電の確認」となり、②のあとに行う)、作業長が最終チェック。問題なければ復電操作を行い、更新作業の完了となる…… が、まだまだ注意が必要だ。取り外した古いVCTを運ばなければならない。帰社するまで気を抜けない。





「リーダーとしての自覚」が自身の急成長を導く
多岐にわたる電気工事士の仕事において、密着取材はレアなケースとなったが、その一端は伝わったと思う。
電力会社が所有する特別高圧機器の更新作業。今回のVCTは週2~4回のペースで作業が入り、メーターを含めた一式の更新から、メーター単体というパターンもあるという。
現場は関西全域。朝イチで出発し、帰社は夕方。遠方の場合、さらに遅くなることもある。移動中は安全確認があり、常に集中力を必要とする「オンの状態」だ。フィジカルは当然として、精神的にもタフさを求められるハードな仕事だと感じるが……。
「ハードですけど、やりがいのある仕事だと思っています。機器を更新して、問題なく復電できるか。電気が通るまでは何かしらの不安はあって、受電したときの安心感。そこが魅力ですね。帰りの移動が最もホッとする瞬間です」(日下部さん)
何年やっても不安であるという日下部さん。決して慢心することがない姿勢が、モチベーションの維持につながっているのだろう。
責任感があり、仕事へのスタンスから所長を務める戸田 敏さんからの信頼も厚い。
「中堅からベテランの域に達する年代で、後輩からも信頼されています。私も若手と話す機会があって、『日下部さんのような技術者になりたい』というメンバーが多い。そんな技術者ですね。リーダーシップがあって、気遣いもできて、クライアントへの対応も問題ない。私も信頼しています」(戸田所長)
若手の相談にも親身になって接し、しっかりコミュニケーションをとることも忘れない。この「話を聞く」という姿勢が信頼感につながるのだろう。
作業中はもちろん、クルマでの移動時も安全確認で気を抜けない。休憩時間や会社にいるときは上司や後輩、仲間と接することが何より楽しい。つまり、自分自身のスキルアップに費やす時間が削られるということだ。
「中型運転免許は業務に必要だから就業時間を使えますけど、自身のキャリアアップとなると、なかなか時間を捻出するのは難しいです。(電気工事)施工管理技士の取得は目指したいので、寝る間を惜しんで勉強するという感じです(苦笑)」(日下部さん)
どんなにデジタル化が進んでも、現場で技術を駆使する。電気工事士という技術者が「そこ」にいないと、建設の現場は終わらない。いや、始まることすらない。
電気工事の技能を極限まで追求したクラフトマン。電気工事士は、建築物に生命を吹き込める唯一無二の存在なのだ。
全国各地で起こっている建築物の再開発ラッシュ。多くの建設現場が、彼らの登場を待っている。



取材協力/株式会社エネゲート、撮影/宮澤 豊
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