Special
The電気主任技術者 Vol.03
電気保安のエキスパートたち
2026.08.24
電気主任技術者の仕事
電気事業法43条で規定されている電気主任技術者の仕事。その内容は多岐にわたるが、自家用電気工作物の保守点検は大部分を占めるメイン業務であり、取得した資格=電験をフルに発揮すべきシチュエーションが至るところに盛り込まれている。しかし……。
自家用電気工作物の保守点検は、もちろん、机上で得た知識だけでは対応できない。それが現場実務の奥深いところだ。
例えば、定期点検で低圧ブレーカ(配線用遮断器)の動作が確認できたとする。電気主任技術者は、この現象についてフローチャートのように思考をめぐらせ、動作に至るまでの多様なプロセスを導き出す。まるで、棋士が王将を追いつめるように、1つずつ選択肢をつぶし、考えられる複数のルートから最善策をたどっていく。
電気主任技術者が手がけるトラブル対処のセオリーは「電気が生きている」現場でしか積み上げることができない経験値が必要不可欠なのだ。
そこで「The電気主任技術者」第3弾は中国電気保安協会 広島営業所で実施する太陽光発電設備とオフィスビルの月次点検に密着。電気保安においてはオーソドックスだが、設置場所や季節、チーム構成によって微調整が求められる業務について、電気主任技術者が行うべきタスクを取り上げる。

地域、季節、設置場所でメンバー&工具類を柔軟にセレクト
オフィスビルや工場、学校、病院、倉庫など、電気保安協会の管轄エリアには無数の高圧需要家があり、その1件1件の保安業務を電気主任技術者が担当している。
しかし、電気主任技術者が担当する需要家の数には制限があり、管轄エリアに存在する需要家の数を考えると、担当は「1件の需要家に1人の電気主任技術者」が基本となる。もちろん、これには知識と経験のベースラインをクリアすることが前提で、つまりは、幾多の現場を歩んだ電気主任技術者に限られるのはいうまでもない。
このプロセスは中国電気保安協会も同様で、しっかり場数を踏んだ電気主任技術者が需要家の保安に努めるのだが、同協会では状況によって柔軟な対応を心がけているという。
今回の密着では、午前中に太陽光発電設備の月次点検に同行。まずは、ここからレポートを始める。
太陽光発電設備は立間瑞貴さんが電気主任技術者として保安業務を担当し、3カ月に1度のサイクルで月次点検を行っている。
現場によっては早朝に出発するが、今回の太陽光発電設備は広島営業所からクルマで20分程度。そのため8時40分から始まる「ラジオ体操」で身体をほぐし、「全体ミーティング」で情報を共有。「グループミーティング」で各自のスケジュールを確認後、点検に必要な工具類をクルマに積み込み、準備万端で現地へ向かう。


数少ないPVは「生きた教材」として最大限に活用
立間班が点検する太陽光発電設備は山の斜面を利用してパネルが設置され、平地が少ない広島市においては数少ない大規模な発電サイトである。今回の点検では太陽光パネルやパワーコンディショナの点検も行うため、人海戦術が採用されたのだが……。
現地に到着後、TBM(ツールボックスミーティング)に集まった技術者は5名。パネルの枚数が多いといっても、正直、技術者の数とバランスがとれていない。これには、瀬戸内海沿岸から数kmで山地が広がるという広島市の地形が大きく関係している。
広島営業所が管轄する広島市は平地が少なく、その大半が宅地として利用されるため、大規模な太陽光発電設備を施設できるほどの敷地がないという。また、山の斜面を利用するケースでも、よほどの好条件がそろわない限り、施設~運用は難しい。こういった理由から、広島市はメガ級PVの未開拓エリアとなっている。
しかし、その数は「0」ではない。広島営業所の管轄エリアにも太陽光発電設備は存在し、保安業務を担当している。
地域特性から、接することが少ない自家用電気工作物。そのため、世代を問わず、電気主任技術者にとっては知見を深める貴重な教材になるといっても過言ではない。
若手を中心とした立間班は、つまり、実務研修も兼ねたメンバー構成ということだ。その実、若手は「太陽光パネル&パワコン班」「高圧受電設備班」に分かれて、レクチャーを受けながら点検をこなしていく。
これには大きな意味があり、市外および県外の営業所や支店に異動した場合でも、単独での点検を可能にするための対応だという。若い技術者がUターンで地元に戻るケースを踏まえたものでもある。技術者不足が常態化しているなか、若手の育成を重要視している同協会の特色だろう。


メーター、接続部、保護継電器の表示……。各部の異常をチェック
必要な工具類をバッグにつめ、9時30分に点検がスタート。2班とも若手にレクチャーしながら、テンポよく点検に取りかかっていく。
ここで、太陽光発電設備の月次点検でチェックする主な項目を列挙する。
太陽光パネル
・ホットスポットの有無
・表面の状態(破損や影の有無)
・配線の脱落(パネルの裏側、太陽電池をつなぐ配線の異常)
・接続部の温度(配線の接続不良による過熱の有無)
パワーコンディショナ
・電圧、電流、電力などの数値(異常値の有無)
・筐体の状態(破損や変形の有無)
・接続部の温度(配線の接続不良による過熱の有無)
高圧受電設備
・メーター類の数値(異常値の有無)
・接続部の温度(配線の接続不良による過熱の有無)
・各機器の温度、状態(異常過熱、破損や変形の有無)
・保護継電器の動作表示(過電流による作動の有無)
これに実作業に入る前の外観点検(目視、異臭、異音の確認)が加わり、約2時間半の点検スケジュールが完了となる。









「真夏の月次点検=複数」がスタンダードになった理由
午後はオフィスビルの月次点検に密着。担当の林 達也さんは知識と経験、技術を備える電気主任技術者だが、キャリア採用で在職年数が浅いため、点検業務にはOJTを兼ねて前任者が同行している。
この2名体制は、中国電気保安協会が定めたガイドラインの指導はもちろんだが、夏場の作業において万一の事態を想定したものでもある。そう、猛暑対策の一環だ。
こまめな水分や塩分の補給、適度な休息を実践していても、それを超越する「暑さ」が技術者に負担をかけていく。体調不良となり、突然、意識を失ってしまうことも考えられる。これが単独作業だとしたら……。猛暑が引き起こすリスクを回避するために、複数名での点検業務を推奨しているという。
電気の安全は「ヒト」が支えている。電気主任技術者にかかる負担を軽減するために、同協会ではフレキシブルな対応を心がけているのだ。
13時40分に広島営業所を出発し、約10分で現地に到着。工具類をそろえ、14時に月次点検のスタートとなった。


「設備」だけではない。電気主任技術者は「ヒト」を守る
オフィスビルでは「高圧受電設備」「低圧分電盤」を中心に点検していく。
まずは、目視で外観点検を行い、同時に異臭&異音の有無を調べる。そして、各相の電流値、電圧値を確認し、サーモカメラで機器本体や接続部の温度をチェック。最後に、絶縁監視装置の動作確認(漏れ電流の警報試験)で高圧受電設備が終了。ビル内にある低圧分電盤の点検に移る。
低圧分電盤はビルの各フロアに設置され、ブレーカの接続部や切り替えスイッチに異常過熱が発生していないかサーモカメラで確認していく。
開始から約1時間で月次点検は完了したが、今回は更新時期を迎えた変圧器の対処、そして、これによる高圧受電設備の仕様についての検討が行われた。
状況を整理すると、当該需要家は隣接する2つのビルを所有し、それぞれに高圧受電設備が設置され、その一方にある変圧器を更新するというが……。
そうスムーズに話は進まない。変圧器自体が高額なことに加え、1つの変圧器で2つのビルの電力をカバーできる容量を備えていることから、高圧受電設備の改修案が浮上したためだ。
さまざまな更新パターンが発生するだけでなく、昨今はPCBの問題で廃棄に厳格なガイドラインが定められ、需要家の負担が大きくなるのは否めない。
しかし、電気主任技術者は「現状」を報告しなければならない。需要家の保安のために、いくつもの可能性を探らなければならない。
月次点検のレポートを提出するとき、担当の森さんは多様な助成金をリサーチし、さまざまな選択肢を用意して変圧器の更新を提案。さて、どうなるか……!?





時代に合った、進化する「電気主任技術者」
太陽光発電設備、オフィスビルの月次点検に密着し、電気主任技術者が手がける仕事をレポート。電気事業法43条を大前提に、それぞれの電気保安事業者が独自のガイドラインを規定して、「電気主任技術者の仕事」としてブラッシュアップされている。
ようするに、事業者の数だけ手法があるわけだが、根底は1つ、電気とヒトの保安に収束する。電気設備を、そして、そこに携わるヒトを守ることが電気主任技術者として最も重要で、最も優先すべき仕事なのだ。
本特集で取り上げた「電気保安のエキスパートたち」の仕事は、これをバックボーンに、その時代に合ったカタチで進化し、未来へと受け継がれるもの。さまざまな世代がオフィスで机を並べ、現場で実務をこなす中国電気保安協会は、過去から現在に継承し、新潮流を育む未来へとつながっていく、まさに、現場スキルの宝庫である。
地球温暖化の影響が夏の「暑さ」を猛暑に、そして、酷暑に発展し、電気主任技術者を苦しめている。それでも、電気の現場にストップはない。どんなシビアな環境にも柔軟に対応する「電気保安のエキスパートたち」の臨場を、いつも待っている。

取材協力/一般財団法人 中国電気保安協会、撮影/Ohmsha Online編集部
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