Interview
動き始めた工業高校プロジェクト。スペシャリストの獲得を図る、龍谷大学先端理工学部の挑戦【技術者のタマゴたち】第5回
次世代を担うエンジニア列伝
2026.02.20
電気戦線異状アリ、さあ「工業旋風」を巻き起こせ!
予備軍を、真のスペシャリストに育成するために……
中学生の「電気離れ」に端を発した、工業高校における電気科の人気低迷。イメージの世界を学習するため、豊かな想像力が求められるだけに、どうしても敬遠される傾向が強い。また、多くの学校で第二種電気工事士試験へのチャレンジが課せられ、そのために「電気科=勉強」という方程式を立ててしまうのも1つの要因だろう。
この展開は、あくまでも一例である。しかし、少子化の影響も重なって状況は深刻化。電気科のクラス数の減少、定員割れ、一括募集の導入など、「電気」として単独で成立しにくい要因が増えている。これが、工業高校の「電気科」を取り巻く環境だ。
スペシャリスト予備軍の減少は、つまり、電気分野の人手不足につながる。電気に携わる技術者がいなくなると、重要なライフラインの1つが断たれることを意味する。これは極端な話だが、電気主任技術者の高年齢化が進行している現状、予備軍が増えない限り、さまざまなところに負荷がかかって影響を及ぼしてしまう。
だから、即戦力となるべく専門知識を習得したり、人間関係を円滑にするためのルールを身につけたり、そして何より、よりコアな部分を追究するための意志を持ったり……。工業高校の電気科が技術者の育成に厳しく対応するのは、どんなリスクが迫ってきても、それを脱する術をマスターさせるためなのだろう。
高校3年間で形成した「電気技術者への資質」は、さまざまなフィールドで羽ばたくためのタマゴにすぎない。三重大学で実施している学校推薦型選抜に続き、研究者を育成する道として「進学」という選択肢を取り上げる。より専門的な領域を追究する教育機関で、どのように資質を開花させていくのか……。今回は、新たなプロジェクトとして工業高校生の獲得へと一歩を踏み出した龍谷大学先端理工学部をフィーチャーする。
──今回、大阪府立都島工業高等学校さんとのコラボイベントでキャンパスツアーを実施(2025年11月5日)しましたが、このキッカケを教えてください。
山本先生:私の研究室に新たに何人か学生が入ってきて、そのうちの1人が、すごく元気があったんですよ。もうビックリするくらい(笑)。私は本学にくる前に高専(高等専門学校)で教えていて、そのときの学生に通ずるものがあって……。その学生と話をしたときに工業高校出身だと知って、ふと、その学校に訪問したいと思ったんですよ。それが都島工業高校さんだったんです。
──先生から積極的に訪問したなんて、めずらしいケースですよね?
山本先生:私は高専にいたので、異色なんでしょうね。そんな自覚はあります(苦笑)。それで連絡して、すぐに訪問しました。
──すぐに都島工業高校さんに訪問したのでしょうか?
山本先生:そうですね。その学生が2025年4月に研究室に入ってきて、5月に彼と話をして、6月にはアポを取って訪問していました。そのときに会ったのが電気電子工学科の磯村和也先生です。13時に訪問して、17時すぎまで話していましたね。
──まさに意気投合ですね。
山本先生:都島工業高校さんとコラボしたいと思って、それを伝えたんです。そうしたら、毎年、企業や大学を見学するツアーを開催しているって言うから、ぜひ、本学にきてくださいって……。トントン拍子で決まったんですよ。
──展開が早いのは、お互いが抱いている構想が一致したからだと思います。
山本先生:本学に勤務して約17年になりますけど、その間、研究が主軸だったんです。学生の教育と自身の研究。あとは研究室に所属する学生の指導ですよね。研究自体はもちろん、経験を積むために学会に連れていったり、17年、教授としての仕事に全力投球してきたんです。それで研究室も安定してきたので、もう1つ、バージョンアップして違うことに取り組みたいという思いが強くなって……。それで何ができるか考えたとき、私は高専にいたので、高専や工業高校の学生を大学に引っ張りたいと思ったんですよ。そのファーストステップとして、今回のキャンパスツアーを企画したんです。
──なぜ、高専や工業高校に目を向けたのでしょうか?
山本先生:龍谷大学に限らず、どの大学でも「自分たちの教育はスバラシイ」という誇りを持っています。でも、これは高校生に伝わりにくい。志望校の選択には、どうしても大学のネームバリューが先行してしまうんです。だから、1人でも2人でも入学してほしいという願いを込めて、高校にアプローチして龍谷大学のPRプロジェクトを始めたんですよ。そのとき、新入生としてイメージしたのが私の研究室に入ってきた都島工業高校出身の学生で、元気がいいのはもちろん、率先して実験に取り組むんですよ。どんな内容で、どんな結果が導けるか、イメージできるんでしょうね。研究テーマも率先して決めているし……。実戦的なんですよ。そこが工業高校生の強みなんです。
──だから、工業高校への積極的なアプローチなんですね。
山本先生:今回の都島工業高校さんみたいに、学校行事としてキャンパスにきて、研究内容の説明を聞いて、龍谷大学の先端理工学部に行きたいって思うように少しでも彼らの感覚にアピールしたいですね。正直、どの大学がいいか高校生はイメージできないと思うんです。選択肢が多くても1つしか選べない状況下、このプロジェクトが(志望校の)選択のキッカケになればいいですね。このツアーに参加したから龍谷大学にきたいと思ってくれることが大切で、1人でも2人でも入学してほしいです。多ければ多いほど嬉しいですけどね(笑)。
──どの大学が自分に合うか、なかなか判断はつきにくいと思います。熟慮した結果、貴学を選択肢から外してしまうことも……。
山本先生:入学してくれることが一番ですけど、この大学は違うと選択肢から外すこともあると思います。それを決められることも重要で、次の大学へと目を向けるようになりますからね。結果的に、どこかの大学で勉強して、成長していって、理工分野の人材を増やしていければいいと思っています。それも狙いの1つですね。




「工業」が紡ぎだす、研究室の新しい模様
──普通科はもちろん、さまざまな専門課程があるなかで、工業に照準を合わせたのは、やはり、先生自身が高専で教鞭を執っていたから?
山本先生:そうですね。大学の先生は普通科出身で、そのまま大学に残って研究を続け、いまのポジションにいるケースが多い。だから、普通科以外のカリキュラムはわからないと思うんです。でも、私は「工業」の教育を経験しているから、その素晴らしさを理解している。即戦力となる技術者の育成が前提だから、あいさつや敬語など、社会のルールを身につけることから取り組んでいるんです。先生もパワフルで、すごく声が大きい。だから、必然的に生徒たちも感化されてシャキッとする。専門分野の知識に明るいのはもちろんですけど、しっかり社会に入っていく準備が整っている印象があるんですよね。それを実感しているので、ほかの先生に普通科は任せて、私は工業系を主軸に活動していきたいです。
──大学として、経営のことを考えると学生の確保は必要です。誤解を恐れずにいうと、これまでの高校は「普通科=進学、工業科=就職」という明確な区分がありました。しかし、昨今の大学では、より専門分野に強い工業高校生をターゲットにする動きもあります。貴学のような総合大学でも、少子化の影響は少なからずあるのでしょうか?
山本先生:2024年の出生数が約68万人と発表されていますけど、このデータで18年後に大学を受験する数が予測できます。学生を確保していくためにも、大阪、京都、神戸と関西以外、東海地方にもPRしていかないといけない時代になったと感じますね。
──研究や実験ではアドバンテージがある工業高校。今後、研究室や学部に、どのような流れで工業高校のエッセンスを取り入れていくか、具体的なビジョンがあったら教えてください。
山本先生:いろいろ構想はあるんですけど、理想の1つは資格です。工業高校では電験三種や電気工事士試験を受験しますよね。これを研究室の学生にチャレンジしてほしいんです。いきなり電気の専門的な内容だからハードルは高いと思うけど、合格したら国家資格が取得できる。自信につながると思うんですよ。通知表で成績が上がったら嬉しいけど、それは学内でのこと。資格は競争相手が学外。それに受験して合格をすると、外からも認められたことになるんですよ。クルマの運転免許と同じで、一般社会に認められる。学生にとって、これは非常に大きいことです。まだまだプロジェクトは始動したばかりなので、そう簡単に展開していくとは思いませんけど、キッカケだけはつくっていきたいですね。研究室に1人でも資格取得者がいると、「オレも取りたい!」って、次々に手を挙げていくと思うんですよね。これを期待しています(笑)。
──工業大学では積極的に資格に取り組んでいるケースもありますけど、総合大学で資格取得を推奨している話は聞いたことがありません。やはり、研究が主軸。そんな環境のなかで「資格推し」は非常にめずらしい動きだと思います。
山本先生:スペシャリストの育成は積極的にやっていきたいですね。人任せにはできない。電気分野の資格はもちろん、学会の発表に英語が必要だからTOEICの受験も推奨しているし、もっと専門的な資格にもトライしていきたいですね。すでに山本研究室の学生には伝えています。ほかの研究室の学生には言いづらいから、まずは、私の領域から(苦笑)。まだまだハードルは高いですけど、使命として、スペシャリストの育成のために「学生の教育」は手厚くやっていきたいですね。継続して取り組んでいきたい。
──課題としては、プロジェクトの継続と拡大、あとはPR大作戦ですね。
山本先生:そうですね。工業高校のキャンパスツアーは都島工業高校さんを皮切りに、神戸エリア、あとは姫路エリアも視野に入れています。関西を中心に、どんどん増やしていきたいですね。今回、2名の先生にサポートをお願いして、彼らから自分の研究室の学生へのPRを期待しています(笑)。直接的ではないけど、間接的につながっていけば、それは確実に広がっていくと思うので……。先端理工学部には年間で約100名の新入生が入ってくるから、早い時期に資格と英語の重要性はPRしていきたいですね。




取材、文/編集部、協力/龍谷大学、大阪府立都島工業高等学校
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