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四足歩行ロボットが軽快にパトロール「火力発電所×DX」
階段の昇降も! 点検ルートを自在に駆けめぐる
2025.10.20
巡視点検は作業「者」から作業「ロボット」へ
発電所や工場、オフィスビルなど、電気を扱う現場には、その安全を確保するために電気設備を守る技術者が存在している。いわゆる、電気主任技術者だ。トラブル発生時の対応はもちろん、それを未然に防ぐために万全を期して保守管理に努めている。
さまざまな業務が保安規程で定められている電気主任技術者。世のなかのデジタル化に伴い、電力インフラの重要性が急速に高まったことで電気主任技術者にかかる負担も大きくなってきた反面、そのデジタル化が電気主任技術者に福音をもたらしてもいる。そう、遠隔監視システムの導入による「スマート保安」の誕生だ。
漏電や温度上昇、絶縁不良など、トラブルの「種」を瞬時に感知して電気主任技術者へ通知するシステムの確立により負担を軽減しつつ、保守管理の精度と速度は格段にアップした。
技術者の「五感」が不可欠な電気分野においても、ようやく現場に活用されてきたDX。電気の保安に直結するシステムが大半を占めるなか、電気主任技術者をフィジカル面でフォローする存在もある。ドローンに代表される「ロボット」だ。
そして、メガソーラーのような広大な設備から、ピンポイントで故障点を検知するような作業に重宝しているスマート保安の先駆者=ロボットは、いま、大きなターニングポイントを迎えている。これまでの概念を覆すようなニュータイプが活躍しているのだ。
そのフィールドは、多種多様な設備が入り組んでいる火力発電所。敷地には、さまざまな高低の段差はもちろん、煙突を含めて約59mの排熱回収ボイラが配置され、発電所の威容は2004年に公開された映画『スチームボーイ』の世界観を彷彿とさせる。足場を含めた点検ルートの複雑さから、作業「者」でしか成立しないと思わないではいられない。
しかし、この考えは「いい意味」で錯覚であると気づく。


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点検ルートに潜む「異常」を子細にキャッチ!
ロボットを活用したDXは、さまざまな分野で導入が推進されている。すべてが作業者の負担軽減であり、とりわけ技術者不足が叫ばれている電気分野では喫緊の課題としてDX化が進められてきた。
だが、これまでのロボットが活躍する作業は「メガソーラーにおける太陽光パネルの点検」のみ。ようするに、サーモカメラによる異常検知だ。技術者の五感を必要としないシンプルな作業こそロボットの独壇場であり、電気分野と蜜月関係を築いてきた、が……。
スマート保安の導入に伴い、ロボットの汎用化も検討され始めた。その好例が四足歩行ロボット『Squad』である。
『Squad』は、まさに猟犬のように点検ルートをトレースし、搭載するカメラで対象物の状態をキャッチしていく。1つのルートを30~70分(全7ルート)かけて巡視し、天候に関係なく、夜間も出動している。
ここで『Squad』に搭載された機能を整理しておく。
・階段の昇降(ステップの高さは最大22cm、傾斜は最大±45°)
・画像の撮影および診断(200万画素、光学30倍ズーム)
・集音マイクによる音響確認
・臭気センサによるガス濃度計測
・赤外線カメラによる温度測定(-40~550℃)
・LEDライト
発電所内を「歩く」という動作はもちろん、電気主任技術者がトラブルの発見に必要な五感、つまりは「異音」や「異臭」「異常温度」を感知するセンサを装備。これらを可視化することで、人間に匹敵するレベルの精密な巡視点検が実現した。また、LEDライトを搭載することで夜間の点検にも対応し、防塵および防水機能の装備により全天候型のロボットに仕上がっている。
市原パワーが運営する市原発電所(火力発電所)で2022年4月から実証試験がスタートしたが、同社の母体となる関西電力では2020年度からスマート保安の導入に着手し、2021年には「ロボットによる巡視点検」の青写真を描いていたという。
敷地には段差があり、狭い通路を昇降するケースもある。そのため車輪で移動するモデルは巡視点検に適さない。
スムーズに段差を越え、安定した姿勢で階段を昇降する能力を備えること。
この機能をマストと考えると、選択肢は「四足歩行ロボット」へと収束していく。どのようなモデルがあるのか、どんな機能を備えているか、導入の費用は……。さまざまな項目を検討し、最高の「巡視点検モデル」を追求。2021年末から始めた試行錯誤は、約3カ月後、ようやく1台のベストを導くに至った。
主任技術者から巡視点検におけるノウハウを踏襲した『Squad』は、仮免許期間となる3年の実証試験を経て、まもなく市原発電所の保安メンバーとして正式デビューを迎える。
雨ニモ負ケズ。風ニモ負ケズ。暑サニモ、寒サニモ負ケズ。
今日も、電気の安全を担うメンバーとしてのプライドを抱き、火力発電所をパトロールする。
四足歩行ロボット『Squad』の巡視点検in市原発電所
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(取材/Ohmsha Online編集部(2025年4月14日に取材)、取材協力/市原パワー株式会社、撮影/宮澤 豊)
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