Column
キャリアアップ・ナビゲーターが展開する「It’s Show Time!」【電気の花道】
資格・de・ダダダ
2025.06.11
Episode 0「キャリア教育支援の誕生」
「花の命は短くて」で始まる詩と同様に、3年間の高校生活はあっという間に終わってしまう。その限られた時間で輝くために、だれもが何かに夢中になっている。部活もそう、友だちとのアフタースクールもそう、バイトもそう、もちろん、恋愛だって……。多感な10代後半、みんな、青春を謳歌している。
しかし、この高校3年間は助走であって、決してピークではない。さらに輝きを放つ瞬間が、未来には星の数ほど存在しているのだ。
20代、30代と歳を重ねても輝き続けるためには、では、どうすればいいか?
それは、スクールライフに「資格」というエッセンスを追加すること。3年間を「ピークに向かうための準備期間」と考えるだけでいい。
この連載は、長年にわたって名古屋工学院専門学校で教鞭を執ってきた筆者が2018年7月から行っている「キャリア教育支援」で感じた喜怒哀楽を、そこはかとなく書き連ねた青春の応援歌である。記念すべき第1回は、筆者が「キャリア教育支援」を発足させた経緯について触れてみようと思う。
連載の第1回ということで、まずは「キャリア教育支援」を始めたキッカケと、それに全力投球する私の「情熱」から書き連ねていこうと思います。
電気業界は慢性的な人手不足に陥っています。教育機関でも電気技術者を志す生徒が少ないという状態です。これを少しでも改善したいと考え、工業(工科)高校への「キャリア教育支援」を始めました。キーワードは「技術者を志す生徒を増やす!」です。
このプロジェクトを始めるにあたり、工業高校の先生方と意見交換を重ねてきました。そのなかで最も心に響いたのは、工業高校の存在意義は「地域に根差した技術者を育成する」ということ。社会的役割を果たすことを第一に、長年にわたり、さまざまな取り組みを行ってきた先生方の姿勢は尊敬に値します。
しかし、現在は中学生の「工業高校離れ」や、在校生の専門職への入職率の低さといった問題が生じています。
職業選択は生徒の自由です。でも、生徒たちと話して感じることは、電気の職種に対する知識の少なさです。企業側が入職率の低さを嘆いていますが、嘆くばかりでなく、PRの努力をするべきではないかと思っています。
そういった背景から「キャリア教育支援」を始めました。第三者の私たちが、生徒に対して電気の職種や資格の重要性についてレクチャー。そして、協力企業は現役の技術者による「現場の声」を披露します。この2本柱で、1名でもいいから資格を取得し、電気業界を志す生徒が現れることを期待しています。
それでは、具体的に「キャリア教育支援」の内容に触れていきます。
電気技術者が、どんなに魅力的なのか。これをアピールするために、私たちが学校に訪問してレクチャーするというスタイルです。紆余曲折を経て、現在は「資格と職業」「企業講演」に落ち着いています。場合によっては「電気のオモシロ実験」という体験型レクチャーが加わります。
この「キャリア教育支援」は企業にも好評で、「未来の技術者を育てるためなら、ぜひ!」と、東海地区ではNTTアノードエナジー、シーテック、中部電気保安協会など、多くの企業がサポーターとして協力いただいています。
講演終了後のアンケートでは、生徒たちから「参考になった」「資格の重要性がわかった」といった嬉しいメッセージが寄せられています。
2018年から「キャリア教育支援」に取り組んでいますが、資格よりクラブ活動を重視している学校もあります。工業高校は基本的に就職を目的としているため、企業側がクラブ活動に取り組んでいる生徒を望むケースが多いからです。クラブ活動を通じて協調性、団結心が育まれることが大きいのかもしれません。
しかし、個人的には生徒たちの「人生のピーク」が3年間のクラブ活動であってほしくないと考えています。学校生活は社会に出ていくための準備期間です。社会では、学生時代には決して経験できないことが仕事として携われます。社会人生活の終盤を迎えている私でも、いまが最も楽しく仕事に携われています。もしかすると、いまが人生のピークなのかも……。いや、これから先に、もっとおもしろいことが待っているかもしれません。
でも、そのような瞬間を感じるには、実力の証明が必要になります。
その実力とは? 一般には「学歴」でしょう。仕事を通じて魅力ある瞬間を経験するために、一生懸命、勉強を続けています。
それでは「学歴」だけが実力を証明する手段でしょうか? いや、技術者を志す工業高校では、誰もが平等に手にするチャンスがあります。それが「資格」です。工業高校は資格を取得するための最高の環境なんです。
そして、せっかくのチャンスなんだから、難易度の高い資格「第三種電気主任技術者試験」、いわゆる「電験三種」にチャレンジしてほしいと思います。
「レベルが高いからムリ」ではなく、「努力を積み重ねることができれば、必ず届く」という強い意志を持って、ぜひ、挑戦してほしいと考えています。これが、将来のトビラを開くキッカケになるかもしれないからです。
こういった経緯で発足した「キャリア教育支援」は、2024年度までにトータル181校で実施しました。どの学校も特色があって記憶に残っていますが、特に印象深かった2つの学校を紹介します。
1つは福島県立平工業高等学校です。当時の電気工学科科長の木村先生に声をかけていただき、2022年に初めて訪問しました。
このときまで知らなかったのですが、平工業高校は福島イノベーション・コースト構想に選ばれている学校だったのです。
これは東日本大震災で傷ついた福島県浜通り地域などの産業を回復するため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトです。ここに教育分野があり、平工業高校が選ばれていますが、このプロジェクトの一端に「キャリア教育支援」を組み入れていただきました。すごく光栄です。
同校の対象は1年生で、実施は6月、さらに50分を3コマというリクエストがありました。2カ月前まで中学生で、もちろん、電気の専門的な内容を知りません。その生徒たちに長時間の講演は可能なのだろうかと、正直、大きな不安を抱えて始めました…… が、まったくの杞憂でした。どの生徒も集中して話に耳を傾け、最後のディスカッションでは多くの質問が寄せられました。
事前の準備として、福島イノベーション・コースト構想に選ばれていることもあり、何も知識を入れない状態で話をしてはいけないと感じていわき市を散策してみたのですが……。東日本大震災が発生した2011年から、時の流れが止まっていると感じました。過去の話だなんてトンデモナイ! 震災から10年以上の年月が経っていても、これからが復興を迎えると痛感しました。
そこで、平工業高校の生徒たちには「東日本大震災で、みなさんの街は傷つきました。それ以前の姿、いや、それ以上の姿にするには、みなさんの力が必要です。しっかりと知識、技術を身につけて、この街の力になってください」と伝えました。そのときに「いわき市のために働いてみたい」という生徒からの声が届いたことは、いまでも心に残っています。
もう1つは石川県立羽咋工業高等学校です。この地域は2024年1月1日に発生した能登半島地震で被害を受けました。同校は硬い岩盤の上に建設されていたことで大きな被害からは回避できたようですが、避難所となったことで教育活動が危ぶまれた状態でした。
同年3月に「キャリア教育支援」を実施し、終了後、中越校長と話をしたときに「震災復興の一環として力を貸してほしい」との言葉をいただきました。「キャリア教育支援」について、生徒はもちろん、保護者の参加も考えているとのことでした。
羽咋工業高校には電気科のほか、機械システム科、建設・デザイン科があります。
「私は電気の話しかできないですよ」
『それでいいんです。分野が違っても、ウチの生徒は話に耳を傾けるし、必ず伝わりますから』
電気の話だけでいいとのことでしたが、さすがに気まずさを感じてメカトロと建築の情報を入手し、講演に組み込みました。
対象は全校生徒と保護者を合わせて500名。過去最多の人数で、個人的にも貴重な経験となりました。退場時には拍手喝采、非常に高揚したことを覚えています。
このように「キャリア教育支援」には多くの出会いがあり、今後も楽しんでいきたいと思います。さて、次回からは具体的に講演を行った学校の様子をレポートしていきます。


プロフィール
石原 昭(いしはら・あきら)
1965年生まれ。1990年4月から名古屋工学院専門学校に勤務。夜間部電気工学科のクラス担任を経て、1993年4月から昼間部電気工学科のクラス担任を務める。管理職となる2015年まで22年、ひたすら電験三種の指導を行い、クラス担任として預かった約300名の学生を電験三種に合格させる。現在はテクノロジー学部の運営とともに工業高校生に対して「キャリア教育支援」を展開している。「電験合格請負人」「電験教育の伝道師」の異名を持ち、東海地区の電気教育分野で活躍中。
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