Interview
電気を「知る」ことで意識改革につながる、名古屋工学院専門学校が放つ究極の教育プロジェクト【技術者のタマゴたち】第6回
次世代を担うエンジニア列伝
2026.09.25
「0」から「1」を生むことの難しさ
技術者不足。その対応のために求人活動や業務PRに奔走した時代は、すでに過去のものになりつつある。
うまく、つき合っていく。そんな観念にも似た「受け入れ態勢」が現場では醸成されつつある。それが、電気保安業務の現場で流れている昨今の空気だ。
実際、経済産業省の統計で「電気技術者の不足」は既定路線であり、特に電気主任技術者については、需要と供給のバランスをみると、そのギャップは2020年を境に広がっていることが確認できる。
新型コロナウイルスがデジタルツールを進化させ、電気保安の現場に「規制緩和」の波が押し寄せた。第三種電気主任技術者試験も大改革を推進し、年2回の実施(2022年)、CBTの導入(2023年)と立て続けにエポックメーキングな方針を実現させた。
すべては「電気技術者の不足」を解消させるためのプロジェクト、だが……。
経済産業省が発表した「2040年の就業構造推計」では、工業高校出身者が91万人、理系の大学出身者(大学院を含む)に至っては124万人もの「不足」が生じると予想。その反面、普通科高校および文系出身者は大きな数の「余剰」を算出している。
門戸をオープンにしているにもかかわらず、近寄りがたい「何か」に阻まれている。電気保安は、そんな分野という認識から脱却できないで技術者の確保がままならないのかもしれない。
それでは、どうすれば「不足」を打破することができるか……。
今回は、無限の可能性を秘めた「技術者のタマゴたち」と接し、電気分野でのキャリア構築をサポートしている名古屋工学院専門学校・石原 昭先生の活動をフィーチャー。東海エリアを中心に各地の工業高校を訪問し、生徒たちの進む未来が「花道」となるべく、さまざまな活路を披露しているプロジェクト「キャリア教育支援」から、電気教育の「いま」に迫ってみる。
──東海エリアを中心に、各地の工業高校で「キャリア教育支援」を展開しています。この活動を始めるキッカケを教えてください。
10年くらい前に、松阪工業高校(三重県)に訪問したのがキッカケですね。電気工学科の科長になったときで、企業も技術者不足だったから「もっと学生をください!」って話が、ものすごくあったんですよ。名古屋工学院は総合専門学校で、電気はもちろん、ITやゲーム、映像、機械といくつかの分野があって、学生の数でいうとITやゲームが多いんです。でも、学科単体で考えると電気が最も学生が集まっているんです。だから、それまでは電気は人気がある学科、分野だと思っていたんですよ。
──2018年くらいでしょうか。そのころは、すでに「電気離れ」が始まっていたかと……。
学外に出る機会がなかったから、本校の状況しかわからなかったんです。でも、企業から「電気技術者が足りない」という話を聞くし、工業高校はどうなんだろうって、ふと思ったんですよね。
──まったく認識が間違っていたんですね。
そうなんです! 本校は西日本で最も規模の大きい専門学校で、そこの電気工学科が最も学生を集めているとなると、世間的にも電気は人気が高いと思ってしまって……。それで、電験三種のつながりで松阪工業高校に訪問しようと思って、初めて学科長の先生と意見交換をしたときに「先生、何を言っているんですか! 三重県の工業高校電気科は、どこも定員割れしていますよ」って言われて、ものすごい衝撃を受けたんです。本校に学生が集まっているから、人気があると思っていたんですよね。驚きましたよ(苦笑)。
──たしかに、貴校で一番人気だったら、そういう認識になります。
初めて人気がないことを知って、愕然としましたよ。そのときに、当時、本校の電気工学科は普通科出身者が6割、工業高校出身者が4割という学生の比率だったんですけど、この4割を失うのは大きいなって思ったんですよ。例えば、100名の学科で4割がいなくなったら60名。そうなると、2名の教員が余ってしまうんです。そこで、私たちに何かできることはないだろうか、工業高校と一緒にやっていく道はないだろうかって考え始めたのが「キャリア教育支援」の原点ですね。
──松阪工業高校さんとの意見交換から生まれた「キャリア教育支援」ですが、工業高校さんの反応は最初からよかったのでしょうか?
松阪工業高校さんのあとも学校をめぐって「何かできませんか? 私たちは電験が得意なので、例えば、電験の講習会を開催できますよ」ってアプローチしたんですけど、すべて断られたんです。『ウチは電験をやってないんだよね』って……。本校が得意なことをテーブルに並べていったら、すべての学校で必要ないってなったんですよ。
──現在を知っているから思うんですが、意外な展開だったんですね。
1年目は複数の学校を訪問して、専門学校は必要ないって言われ続けたんです(苦笑)。当然、実施は「0」ですね。それで2年目に入って、岐南工業高校(岐阜県)の科長先生と意見交換をしていたときに、科長先生が『なかなか資格に本腰を入れてくれない。何か生徒たちの意識を変えることができたらなぁ~』って、ボソッとつぶやいたんですよ。それを聞いて「私たち、できますよ!」って……。これが「キャリア教育支援」につながったんです。
──学習指導だけではなく、モチベーションを高めることも専売特許ですもんね。
そうなんですよ(笑)。本校では学生たちに「電験に合格すると、こんな未来があるんだよ」って言い続けているんですけど、そのうちに「耳にタコ状態」になるんです。私たちが言う100回のアドバイスより、企業の担当者を招いて『電験を持っている学生がほしい』という1回のPRのほうが、はるかに響くんですよ。コレ、工業高校でも同じ図式なんじゃないかと思って、それで記念すべき第1回を岐南工業高校で実施したんです。
──身内より、第三者の意見に耳を傾けがちですよね。それで、ようやく第1回を開催しました。
岐南工業高校での実績を持って、さまざまな学校に訪問したんです。講演の内容、生徒たちの反応、先生たちの印象を伝えてPRしたんですけど、なかなか波に乗れません。そのときに必ず聞かれるのが、実施した「回数」なんですよ。『いくつの学校でやったんですか?』「岐南工業高校だけです」『それじゃあ、結構です』って……。そのときに学びました、数は力ですね。前例のないイベントは受け入れられない。これが数が膨らんでくると、高校の先生は横のつながりがあるので話が広がって、すぐに開催が決まるんですけど、まだまだでしたね。
──ようやくの初回。でも、試練の道が続きますね。
だから、「キャリア教育支援」の歴史でいうと、1年目は話がまとまらない。2年目は4校、3年目が8校、4年目は12校って、なぜか4校ずつ増えていって、新型コロナウイルスによる活動自粛が明けてから急に拡大しました。それで、2023年が50校。やりすぎだって本部(電波学園)から怒られました(苦笑)。そういったこともあって、2024年は私からのPRをストップしたんです。声をかけていただいた学校で実施するスタンスにして、それで約40校にまとまったという流れです。
──そういったプロセスがあったんですね。先生の「キャリア教育支援」は本誌でもレポートしていただいています。
完全に軌道に乗ってからの連載なので、ここに至るまでの紆余曲折はわかりませんよね。最初は私と小林(真治)先生でやっていたんですけど、教育関係の人間だけじゃなくて、現場の話があったほうが生徒たちにもリアルに伝わるんじゃないかと思って、企業さんに協力を打診したんですよ。
それにあたって、愛知県の電業協会と電気部会(愛知県高等学校工業教育研究会工業部会)の会合に特別参加させてもらったんですけど、また驚愕するんですよ(苦笑)。電気の卒業生が、専門職に就く割合が想像以上に少ないんです。本校の電気工学科では、ほぼ100%なのに……。衝撃でしたね。そんな状態なんだから、現場は疲弊してしまいますよ。
──その数字は意外でした。なぜ、そんな状況が生じるのでしょうか?
専門学校にいると、工業高校の進学相談会に呼ばれて生徒たちと話す機会があるんです。そんなに電気が人気ないのかと思って、毎回、聞いてみるんですよ。そうしたら、電気科に進学した生徒は電気が嫌いではないんですよね。企業のことを知らないだけなんです。保護者にしてみると、自分の子どもが少しでも有名な企業に就職できるチャンスがあれば、当然、そっちの道に行かせたいですよね。でも、学校の先生は生徒の性格、気質を考えて適材適所な企業を推薦します。ここで齟齬が生じて、結局は企業の名前で就職先を選んでしまうケースに……。名の通っている企業にばかり技術者が集中して、電気業界は衰退してしまいますよ。
工業高校は地域の産業を支える人材を輩出するんですけど、卒業生の多くが自宅から通勤できるメーカーを選択しています。そのため企業は技術者を育てることすらできない。じゃあ、どうするのかというと、文系の大学生を採用してゼロから教えているんですよ。それだったら、地元の専門職に就く魅力を工業高校生にPRしましょうってことで「キャリア教育支援」への協力を求めたんです。それに賛同していただいたのがNTTアノードエナジーさん、中部電気保安協会さん、シーテックさんですね。コラムでも取り上げています。
──第2期として始めた企業講演も好調のようですね。
企業さんが講演したとしても、生徒たちは全員が熱心に聴くかといったら、必ずしもそうではないんです。テーマは電気の仕事で、リクルートで話すわけではないから、まったく興味を示さないケースも多いんですよ。積極的に耳を傾けてくれると思っているから、みなさん、最初は戸惑っています。だから、企業さんも講演内容を工夫して、ブラッシュアップしているんですよ。シーテックさんは典型です。毎回、真剣勝負(笑)。しっかりPRをしないと、人の心に響きませんからね。
──各地の保安協会さんも言っています。技術者が足りないって……。
いくら経験や実績、技術力があっても、いまの状況を理解していないと人は集まらない。あぐらをかいていたら大変なことになりますよ。しっかり考えているところは、内定を出すのも早いです。本校でも、地域的に想定外の企業さんから求人をいただいて、2年生の7月の時点で内定をいただきましたからね。この学生はあと1年、本校で学ぶんですけど、もう就職が決まりました。最大手でも、PRを怠ると技術者不足を招いてしまう状況なんです。



「キャリア教育支援」が導いた、それぞれのキッカケ
──この「キャリア教育支援」は電気科を中心に実施しているのでしょうか?
そのつもりでしたが、最近は機械科の依頼が増えています。それから電子科ですね。工業高校の電子科は強電に取り組む傾向があって、そのような学校では工事担任者やITパスポートに加えて、電気工事士試験にも取り組んでいるんです。
──電気だけでなく、機械や電子にまで広がっています。岐南工業高校さんから始まって、年を追うごとに実施校が増えていきました。リピーターもあるし、ピーク時は50校。回数を重ねることで、工業高校の先生、生徒に何か変化はありましたか?
資格取得のレベルが高くなったって言われます。そして、専門職に就きたい生徒が増えたってことですね。すごく嬉しい。私にとっては最大のホメ言葉(笑)。あとはね、長野県の悲願だった電験三種の合格者が出たことです。みなさん、努力して取り組んでいたんだけど、なかなか合格しなかったんですよ。この状態が、いまは当然のように合格者が出るようになって……。飯田OIDE長姫高校は典型で、先輩たちが取り組んでいる姿をみて、後輩たちが自主的に勉強するようになったんです。文化として醸成されたんですよね。これは理想の展開です。本当に、それぞれの学校の先生たちが地道に努力を重ねている結果ですよ。私は、ほんの少し手伝っているだけですからね。
──やはり、資格への取り組み、特に電験三種への意識が高まったことが大きかったみたいですね。
「キャリア教育支援」のなかで時間に余裕があるときは、必ず「電験三種、理論だけでもチャレンジしてください」って言うんです。就職して、うまくいっていたらいい。でも、現実問題として高校卒業者の3年以内の離職率が4割といわれています。つまり、クラスのなかで会社を辞める生徒がいるかもしれない。そうなったとき、もっと専門的な仕事に就くためには資格が必要になります。そのなかでも企業が求めている資格が電験三種。この電験三種、働きながら取得できるかっていわれたら…… もちろん可能です。私自身も働きながら取りました。ただ、高校時代に、理論を真剣に取り組んでいない人は、正直、難しい。高校時代に受からなかったとしても、しっかり向き合った人は受かると思いますね。理論だけは、真剣に取り組んだ経験がないと本当に難しい。だから、理論にチャレンジすることを勧めているんです。
──理論はキーなんですね。
講演を聴いて、取り組みたいって手を挙げる生徒がいるとします。でも、一方的じゃダメなんです。指導する側、ようするに、先生たちも覚悟を持って対応するようになっていないと、電験三種を受験する土壌は育たないんですよ。もちろん、指導は簡単にはいきません。本校の先生でも、電験三種を持っていても、何年もブランクがあったら教えられないって言っていますからね。
──電気科の先生たちが全員でサポートするか、強烈な個性を持つ1人のキーマンが引っ張っていくか、このどちらかのパターンが王道の指導スタイルだと思いますが、いずれも生徒たちを導くためには相当の覚悟が必要です。
20代の血気盛んな先生がいて、生徒たちと「一緒に取り組もう」って環境になったら、その学校は一気に伸びると思います。そんな先生はいないに等しいですけどね(苦笑)。私は「キャリア教育支援」を通じてタネをまいていますけど、それが育つか、枯れるかは環境次第なんですよ。そこに私が携わる余地はないので、本校で実施している電験の勉強会を案内するしかないんです。
あとは長野県の「電験三種学習合宿」のように、県で電験三種に取り組んでいる学校が集まる勉強会に講師派遣をするなど、そういった独自の取り組みへの協力ですね。例えば、静岡県だったら島田や掛川が距離的には中間になるので、講師派遣をしますから、ここで電験三種を受験する県の全生徒を集めて勉強会をしましょうって、そういった提案はしています。
──先生のコラムにもありますが、生徒たちの意識の変化が大きいように感じます。
高校在学中には難しかったから、電験三種を取るために本校に入学してくれるんです。『電験を取りたいから入りました』って言われて……。すごく嬉しいですよね。
──「キャリ教育支援」の1つの理想形です。
生徒たちの意識が変わった、スイッチが入った瞬間です。電験に取り組んだあとは、次のステップとしてUターン就職を考えています。2026年に長野県で実現したんですけど、長野県の高校から本校に入学して、電験を取って、地元の企業への就職が決まったんですよ。長野県の企業に訪問して、ルートを築くことができました。
──電験の取得は、ある意味でサブ的な要素。絶対条件は就職ですよね。
専門学校は就職させるための学校ですからね。Uターン就職のために地方自治体と協力関係を築いたり、企業に奨学金制度の設立を打診したり、いろいろ動いています。特に、後者は経済的な理由で進学を諦めた生徒を対象に、企業の奨学金で本校に入学して電験を取得し、その企業に就職して責務を果たす。この流れが実現させることが当面の目標。これは個人では絶対にムリだから、いろいろ協力体制を築いていきたいですね。
──キャリア教育支援は最大で50校を数えます。資格の重要性について普及活動を展開していますが、これによって貴校での変化は何かありますか?
電気工学科ですが、入学してくる生徒数が増えました。例年でいうと80~100名のところ、嬉しいことに、2026年度は150名になりました。もちろん、一番の要因は電験三種の合格者数が100名を超えたことですけど、この活動も一定の実績につながっているとの手応えを感じているので、次の展開を考えています。
──先生の年齢的なこともあるでしょうけど、この「キャリア教育支援」は続けてほしいです。
本校には5分野、全17学科あって、それぞれの科長は学科を運営していくのが主な仕事です。そのための課題は身近なところにあって、解決に動きやすい。でも、1年先、5年先、10年先の将来のために必要なことって、どうしても優先順位は下がりますよね。企業との関係、高校との連携はあったらいいと感じる反面、すぐに行動して関係を築く先生はいないのが現状です。この活動は電波学園から指示を受けているわけではないし、個々の性格的なこともあるので、よっぽど興味があって、自分から率先して担当するくらいじゃないと続かないと思っています。『人脈は自分でつくるもので、引き継がれるものじゃない』って言われたことがあって、やっぱり、難しいのかな……。
──この活動で築いた人脈は貴校の財産だと感じています。カタチは変わっても、継続していくための何らかの一手が打たれることを望みます。
「キャリア教育支援」でも本校の小林先生と一緒に担当することが多くて、彼の「電気のオモシロ実験」が人気なんですよ。こういったイベントのMCをやったら彼は本校No.1で、子どもたちを楽しませることにかけては天下一品。だから、工業高校だけじゃなくて、最近では小学生を対象とした実験イベントを展開しているんですよ。まだ何が生まれるかみえていないけど、何らかの化学反応はあるんじゃないかと思っています。大きなコストがかかることじゃないし、かかるのは交通費だけ。失敗してもいいんですよ。いろいろトライしていけばいいんです。
新しいことに携わるのは本当に楽しいですからね、それぞれの得意分野を追求していくと、きっと新しいモノが生まれると思います。



取材、文/Ohmsha Online編集部、協力/名古屋工学院専門学校
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