Q&A
ファンコイルユニットの省エネ事例【設備の相談5】
事例で解決!
2024.01.19
相談
病院の設備担当者から「停止中のファンコイルユニットに冷温水が送水され、エネルギーロスが発生しているようだ。何か対策はないか」と相談されました。どのような方法で省エネに取り組めばいいでしょうか?
回答
運用状況と問題
ファンコイルユニット(以下、FCUと表記)の一般的な省エネは、空調不要時のこまめな運転停止です。しかし、配管システムによっては、相談内容のような理由からエネルギーロスが発生します。ここでは病院に設置されたFCUの省エネ事例を取り上げます。
この病院では2とおりの方法でFCUを発停しています。ひとつは室内の利用者がスイッチから操作する方法、もうひとつは建物管理者が中央監視盤から遠隔操作する方法です。
年間をとおして空調が必要な病棟は利用者がFCUを発停しています。一方、診療時間外の空調が不要な外来では2とおりの方法を使用し、利用者の停止忘れに対応しています。
図1に配管システムを示しますが、当初、FCUへの送水を制御する電動弁は未設置で停止中の外来系統FCUにも一定量の冷温水が循環し、熱損失が発生していました。

冷温水の循環水量
全台に8L/minの定流量弁が設置されていることから、
外来系統:8[L/min]×100[台]=800[L/min]
病棟系統:8[L/min]×300[台]=2400[L/min]
空調機の診療時間外の循環水量は2管式、4管式ともに3000L/minという測定結果でした。
したがって、診療時間外の循環水量は全体で9200L/minとなります。熱損失が発生している外来系統FCUの循環水量は800L/minなので、全体の約9%の冷温水が無駄に循環していることが水量比からわかりました(800[L/min]÷9200[L/min]×100≒9[%])。
無駄を省くことで消費電力12kWの循環ポンプを1台、停止できます。
省エネ効果の試算
外来系統FCUの送水停止による省エネ効果を表1に示します。前述の搬送動力削減に加え、冷凍機とボイラの負荷軽減により、年間で2054千円の光熱費を削減可能と試算しました。
停止から1時間後の外来系統の往還温度差は0.5℃でした。省エネ効果の試算における水の比熱を4.19[kJ/L・℃]、SI単位で4.186[kJ/kg・K](水1Lを1kg、温度差1℃を1Kとして試算)と設定し、ここから1時間あたりの熱損失は以下のように求めることができます。
800[L/min]×60[min/h]×0.5[℃]×4.19[kJ/L・℃]=100560[kJ/h]
冷房期間に運用しているスクリュー冷凍機のCOP(成績係数)が5.26なので、熱損失を電力量に換算すると、
100560[kJ/h]÷3600[kJ/kW]÷5.26=5.3[kW・h]
となります。
また、暖房期間の熱損失はボイラ燃料の都市ガス(発熱量40600kJ/m3)に換算すると、ボイラ効率が0.92の場合、
100560[kJ/h]÷0.92÷40600[kJ/m3]=2.7[m3/h]
と求めることができます。

工事計画と施工
試算の結果、循環水量の制御が有効と判断し、冷温水配管に電動弁(図1のA)を設ける改修工事を計画しました。工事中は断水により空調が停止するため、患者さんへの影響が最小となる仕切弁を調査しました。
これにより、外来系統FCUのみ断水可能な仕切弁(図1のB)をピット内で確認しました。断水範囲を限定したことで、患者さんに影響なく工事を完了できました。
増設した電動弁(写真1)は中央監視盤からの操作として、外来系統FCUの発停に合わせた開閉スケジュールを設定しました。この電動弁により、外来系統FCUは運転時のみ送水が可能となり、試算どおりのエネルギーロスを削減できました。

※「設備と管理」2015年4月号に掲載
(回答者/TMES設備お悩み解決委員会)
設備の相談 記事一覧
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