Q&A
井水使用の給湯設備における赤水発生の解決事例【設備の相談7】
事例で解決!
2024.04.12
相談
ある宿泊施設で、給湯系統の赤水対策で苦慮しています。水は水道水と井水の混合で、現状は利用者に迷惑がかからないように、日常運用で対処しているのですが、根本的な対策はあるのでしょうか?
回答
赤水の発生
竣工から40年が経過した宿泊施設を例に、今回は給湯設備(表1)における赤水発生の解決事例を取り上げます。
数年前から、客室の稼働率が高くなると、いくつかの客室でお湯を使うときに赤水が出る現象が発生していました。
この原因は炭素鋼鋼管部分のサビが以前より発生して、その状況で給湯使用量が増加したときの流速の増加や、急激な補給水流入による貯湯槽内の撹拌などによって、給湯配管内部に堆積したサビが剥離し、お湯に混入したためではないかと考えました。
運用変更
対策として、まず、貯湯槽の運用変更を試みました。
この宿泊施設の貯湯槽は客室系と一般系に分かれていますが、連通管で接続され、通常はバルブの閉止で系統を分けています。
そこで、客室の稼働率が高いときの貯湯槽の温度、水位変動を緩和する措置として、閉止していた連通管のバルブを開放し、すべての貯湯槽が客室系統に対応できるようにして、使用量が増大することによる影響を低減させました(図1)。
この対策は一定の効果を発揮しましたが、デメリットとしては系統ごとの給湯使用量の把握ができなくなるということが挙げられます。
また、この対策だけでは十分ではなく、浴室使用中の宿泊客からの「色のついたお湯が出た」というクレームは完全にはなくなりませんでした。
サビは粒状なので、配管内の湯の動きが落ち着くと系統内の低いところにたまるはずです。そこで、客室の稼働率が高くなる予定の日は、チェックイン前に給湯配管の各系統の末端で排水し、堆積したサビ成分を排出することにしました。これは設備スタッフと客室係の数名で行う恒例の作業となり、通称「赤水出し」と呼ばれるようになりました。
このように、しばらくは日常的な対応でしのいできましたが、毎回、2時間程度かかる作業のため、人的負担は相当なものであり、赤水を発生させて宿泊客に迷惑をかけるリスクを完全に取り除けるわけではありません。さらに、相当量のお湯を排水してしまうのも見逃せないロスです。
原因究明
給湯配管は、建築当初は炭素鋼鋼管で構成されていましたが、現在は大部分が銅管に変更され、さらに劣化した銅管の系統はステンレス鋼管に更新され、配管による影響は減少しています。この更新は現在も継続中です。
配管に起因する以外では井水を混合させた水を使用していることがサビの発生に影響していると考えられます。
あらためて定期の水質検査結果を確認したところ、使用している井水は基準値内に収まっているものの、水道水よりも鉄分とマンガンの値が高く、この鉄分が赤水の原因になっていることが判明しました。
対策の検討
この結果を受けて、対策として考えられることは「①井水の使用を止める、または減らす」「②除鉄装置を導入する」の2点が挙げられます。
もちろん、設備に変更を加えず、現状の運用方法を維持するという選択肢もありますが、宿泊施設としては根本的な水質改善が望まれます。
井水を使用するメリットは、水道料金の低減であることはいうまでもありません。1日に230m3、1カ月で7000 m3前後の井水を使用していますので、これを水道水に置き換えた場合のコスト増は「230[m3/日]×365[日/年]×404[円/ m3]」=3400[万円/年]と膨大になります。なお、この404[円/ m3]は当該地域における上水道の料金単価です。
一方、除鉄装置を導入する場合は機器設置の初期費用と、薬剤などの消耗品の購入や保守管理にかかる維持費用が発生します。この宿泊施設の衛生設備施工会社などの協力を得て、あるメーカーの除鉄・除マンガン装置を選定しました。費用概算は以下となりました。
・設置費用:2000万円
・保守費用:定期点検が年間24万円、薬品および消耗品が年間12万円
装置の設置費用は水道料金の1年分に満たない金額であり、毎年の維持費用も許容できる金額であることが確認できました。
装置の設置と効果
除鉄・除マンガン装置の設置を予算化し、着工が承認。「赤水防止策工事」の名目で工事が実現しました。
その結果、装置の運転開始後、しばらくは赤水の発生が確認されたものの、少しずつ頻度が低くなり、現在ではほとんど発生しなくなりました。
なお、表2に示すように、さまざまな建物で井水は使用され、水処理が行われています。
※「設備と管理」2015年6月号に掲載
(回答者/TMES設備お悩み解決委員会)