Q&A
ボイラ排水処理の変更によるコスト削減事例【設備の相談3】
事例で解決!
2023.10.05
相談
建物所有者から「ボイラ排水のpH値が高く、井水で希釈してから下水道へ放流しているため、高額な下水道料金が発生している。2年以内に投資回収が可能な提案をお願いしたい」との要望がありました。どのような対策があるでしょうか?
回答
建物所有者が抱える課題の整理
下水道料金の削減と環境保全を着眼点として、安全および安定稼働を目指した炭酸ガスによる中和処理装置の導入事例を取り上げます。
最初に現場調査を行い、課題を確認しました。空気調和設備や蒸気滅菌などのため、10台の蒸気ボイラが24時間、年中無休で稼働しています。
ボイラ給水は軟水処理が施されています。腐食やスケール防止のために薬剤を添加し、ボイラ缶水の水素イオン濃度(pH値)を9~12の管理値に維持しています。
ボイラ缶水は濃縮されるため3時間ごとに間欠排水をしています。このボイラ排水は高アルカリ性でpH値が高く、下水道法の排水基準「pH値5を超え9未満」を守るためには、そのままでは下水道に放流できません。現状は濃縮されたボイラ缶水を排水するたびに井水で希釈してから下水道へ放流しています。そのためpH希釈用に使用した井水の量が下水の使用量に加算され、下水道料金が高額になっているのです。
ちなみに、水道料金は従量料金と下水道料金から構成され、使った量で加算されます。使った量が多くなるほど1m3あたりの単価が高くなる仕組みになっています。
ボイラ排水処理方法の検討
各種処理方法について、処理効果、安全性、安定性、取り扱いやすさ、コスト、環境側面などを検討しました(表1)。その概要を以下に説明します。
①現状の井水による希釈方法
この方法は取水制限がなければ効果的で、処理も安全に行え、取り扱いも容易です。その反面、下水の発生量が多く、下水道料金が高くなります。
②炭酸ガスによる中和処理方法
この方法は市販の炭酸ガスボンベを使用するので、処理効果、安全性、安定性、取り扱いやすさ、コスト、環境側面に優れています。また、反応速度が大きく、配管直注入や反応槽が小型になるので、ユニット化により設置スペースがコンパクトになります。さらに、市販の炭酸ガスは化学工場などで副生したCO2ガスから製造されるので、中和処理への適量の使用は地球温暖化の防止にも貢献できます。
③ボイラ自体の排ガスによる中和処理方法
ボイラ排ガスの量と濃度の変動が大きく、温度も高く、扱いづらく、この方法では安定した中和処理ができません。
④塩酸や硫酸による中和処理方法
強酸である塩酸や硫酸は特定化学物質に該当し、さらに硫酸は濃度や量によって消防法による危険物に該当します。そのため、安全性と腐食性が懸念されます。
以上より、総合的に判断して「②炭酸ガスによる中和処理方法」を選びました。提案した中和処理装置を含めた改善前と改善後の処理フローを図1に示します(図中の〔既存〕は改善前、〔新規〕は新規導入)。導入後の効果も、ほぼ想定どおりでした。
炭酸ガスによる中和処理装置の導入効果
改善前と改善後の下水発生量および下水道料金を表2に示します。
年間削減金額は約1350万円となりました。炭酸ガス中和処理装置の導入金額となる約800万円に、現状のボイラ排水の中和に要する炭酸ガスなどのランニングコストとして年間で数十万円を加えても回収年数は1年以内となりました。
コスト削減に加えて地球温暖化防止にも貢献する提案であったと、建物所有者から感謝された事例でした。
※「設備と管理」2015年2月号に掲載
(回答者/TMES設備お悩み解決委員会)