Q&A
冷凍機の運転手法の改善による省エネ事例【設備の相談6】
事例で解決!
2024.03.07
相談
建物所有者より「できるだけコストをかけずに冷凍機の省エネ対策を進めたい」という要望を受けました。どのような視点で対策を進めていけばいいでしょうか?
回答
すぐに実行可能な省エネ対策
夏期の冷房ピーク時は冷凍機がフル稼働に近い状態となり、省エネを行うにもリスクを伴います。しかし、中間期や冬期などの部分負荷運転時においては、設計条件とかけ離れた非効率な運転となっているケースも多々あります。
このような部分負荷運転時における冷凍機周辺の各種条件を見直すことで、運転効率を大幅に改善できる場合があります。そこで、対応しやすい省エネ策と検証事例を以下に取り上げます。
冷凍機の効率運転を検討する場合、導入機種により多少の制限はありますが、下記の対策を講じることで省エネ効果が期待できます。
①冷水の設定温度を上げる
冷水温度の設定を上げることでターボ冷凍機の場合は圧縮機動力、吸収冷凍機の場合は燃料消費量が低減します。ただし、室内温湿度への影響の確認が必要です。
②冷水流量を絞る
冷凍機の冷水出入り口温度差が定格仕様値に近づくように冷水流量を絞ることで、冷水ポンプ動力の低減につながります。ただし、冷凍機の変流量対応と最小流量の確認が必要です。
③冷却水の温度を下げる
冷却水の温度が低いほど、冷凍機の動力が削減できます。ただし、冷凍機の冷却水下限設定の確認が必要です。
④電流制限(デマンド制限)を入れる
ターボ冷凍機の電動機に流れる電流を制限することで、消費電力を抑えられます。ただし、冷凍能力が制限されるため、空調機などの二次側の調整が必要となる場合があります。
⑤高効率機の優先運用
新旧の冷凍機が混在する場合は新型機を優先運用し、固定速機と可変速機が混在する場合は部分負荷特性のいい可変速機を優先運用することで、熱源設備全体としての動力低減が図れます。
冷水設定温度の変更による省エネ効果
蒸気吸収冷凍機の中間期と冬期における冷水出口設定温度を9℃から11℃に上げた場合の省エネ性を検証しました。
この検証にあたり、図1の熱源システムに示す各ポイントに設置されたクランプ電流計、超音波流量計、配管表面温度計、温湿度計から得られた実測データを用いるとともに、運転条件を近似させるため、冷凍機負荷率を約20%で制御し、冷却水入り口温度が21~22℃のデータのみを抽出しました(図2)。
一般に、吸収冷凍機の冷水出口温度を2℃上げた場合、7%程度の効率改善となりますが、この検証では平均COPが0.57から0.86に上昇し、約50%の効率改善となりました。また、平均COPから蒸気削減熱量を計算すると、
4263[GJ]-2826[GJ]=1437[GJ]
となり、ボイラの燃料削減効果は、
1437000[MJ]/46[MJ/m3]/0.9=34710[m3]
となりました(表1)。
この検証を行った吸収冷凍機は経年による性能劣化の影響もあり、初期性能の約60%で稼働していましたが、負荷率が20%前後の部分負荷条件(ON、OFF制御機能)において、冷水出口温度を2℃下げることで一般的なCOP向上効果の約7%を大きく上回る約50%の効率改善となりました。
老朽化の度合いによっては設備の更新も視野に入れる必要がありますが、性能劣化の影響を緩和させるという意味でも、冷水出口温度の変更が有効であると推測できます。
また、二次側外調機の全数について、検証期間中の給気温湿度を確認した結果、制御上の変化はみられなかったことから、冷水出口温度の変更による空調環境への影響はないと判断しました。
中間期や冬期における冷凍機の部分負荷運転時には、空調環境に影響のない範囲で前項の①~⑤のような省エネ対策を講じると同時に、熱源設備の台数制御の見直しなど、システムとしての最適運転点をみつけることが重要です。
検証データを基に、建物所有者には機器更新計画と省エネ対策によるコスト削減効果を説明し、納得のうえで要望に沿った計画を進めることができました。
※「設備と管理」2015年5月号に掲載
(回答者/TMES設備お悩み解決委員会)