Management
ハザードを把握する方法とは?【コンプライアンス入門 第2回】
現場で役立つ!
2023.09.01
第2回 リスクアセスメントと危機管理②
ハザードを把握する方法とは?
工事現場で起こる損失には原因がある。リスクアセスメントでは「ハザード」と呼ぶ。ハザードを正確に把握して工事を進めることができると、リスクや危機、そして、損失を防ぐことができる。第2回はハザードを把握し、定量化、定性化する方法を紹介する。
ハザードを把握する
組織における損失の多くは「ハザード(原因)」→「リスク(損失の可能性)」→「危機(重大な事件、事故)」→「損失(致命的なダメージ)」という流れによって発生する。つまり、損失を防ぐためには、その原因であるハザードを把握することが重要となる。
ハザードには大きく分けて2つある。それはマクロハザードとミクロハザードである。
このうち、マクロハザードは企業や個人ではコントロールできないハザードのことを指す。その種類と具体事例を挙げてみると以下となる。
・政治的ハザード:政権交代
・法 的ハザード:建設業法の改正、環境規制
・経済的ハザード:為替の変動、インフレ、デフレ
・環境的ハザード:炭酸ガスの増加
・自然的ハザード:地震、水害
・宗教的ハザード:宗派の違いによる紛争
・文化的ハザード:文化の違い
・社会的ハザード:セクハラ、パワハラ、差別
・技術的ハザード:コンピュータの発達、建設ICT技術の進歩
マクロハザード自体をコントロールすることはできないが、対策を立てることは可能だ。そのためにはマクロハザードによって未来がどうなるかを想定することである。
法的ハザードであれば、建設業法が改正されれば工事運営にどんな影響があるのかという仮説を立てる。経済的ハザードならば、円高が進行すれば資材価格はどうなるのかを計算してみる。
これに対し、ミクロハザードは企業や個人でもコントロールできる。その例を以下に示す。
・物理的ハザード:モノの物理的諸条件に基づくもの
・モラール(士気)ハザード:人の意欲喪失や不注意に基づくもの
・モラル(道徳的)ハザード:人の故意や悪意に基づくもの
クルマの運転時を例に挙げると、物理的ハザードとは「路面の凍結」や「タイヤのすり減り」である。「路面の凍結」にはスノータイヤを装着したり、スピードを落としたりすればいいし、「タイヤのすり減り」に対してはタイヤの点検や交換を実施すればいい。
モラールハザードは「わき見運転」「前方不注意」である。これに対しては教育、日々の周知、クルマに注意喚起表示を行うなどの方法で企業がコントロールすることができる。
モラルハザードは「携帯電話を見ながら運転」「飲酒運転」「無免許運転」である。これには処罰規定の厳格化といった方法で対応可能だ。
現実はマクロハザードやミクロハザードが複雑にからんで大きな損失につながる。
例えば、交通事故でも単一のハザードだけが原因ということは少ない。経済的ハザードによって危険箇所の改修が遅れている道路で、飲酒運転(モラルハザード)をして、たまたま路面が凍結(物理的ハザード)し、わき見運転(モラールハザード)をしてしまったというように、いくつものハザードが重なって大きな損失を招くのだ(図1)。
この場合、もし1つでもハザードを回避できれば事故が発生しなかったかもしれない。つまり、マクロハザードとミクロハザードを事前に把握していれば、リスクは減少し、危機を逃れる可能性は高まるということである。そして、リスクが減少すれば、当然のことながら、損失を招く危険性は減少するということだ。
このように、損失を減らすためにハザードを見極めるセンス、リスクに対する感性が大切なのである。
リスクを見極め、ハザードを定量化&定性化する
例えば、紛争が起こっている地域の工場に、どうしても行かなければならないとする。そんなとき、どのような備えをすればいいか。防弾チョッキなどの身を守る装備は用意しておかなければならないだろう。また、高額の保険にも加入する必要があるかもしれない。
一方、国内ではクルマの任意保険には加入するだろうが、それ以上のことはしない場合が多い。このように、リスクへの対策は、リスクの大きさによって異なってくる。
リスクマネジメントを行わないで物事を決断するということは、真っ暗闇のなか、目の前に危険物があるかもしれない場所で「進む」か「戻る」かを決めるようなものだ。
まずやるべきことは、周囲が明るくなってきたときに、危険物の場所や数を正確に調査すること。それが正確に把握できれば、もはや目の前にあるのはリスクではなく、単なる障害物(=ハザード)にすぎなくなる。
調査をするうえで大切なことは「定量化」と「定性化」である。この場合でいえば、危険物の種類、場所、数、大きさ(定量化)と、危険物の形状(定性化)だ。数字と形で表すことによって、対策が立てやすくなるだけでなく、対策を練るために他人と情報を交換しやすくなるのだ(図2)。
プロフィール
降籏 達生(ふるはた・たつお)
兵庫県出身。映画「黒部の太陽」で建設業に魅せられ、大学卒業後、大手ゼネコンに入社。社会インフラの工事に従事する。1995年には阪神・淡路大震災で故郷の崩壊に直面し、建設業界の変革を目指して独立。1998年にハタ コンサルタント株式会社を設立し、代表として建設業界の革新、技術者の育成、建設会社の業績アップに情熱を注いでいる。