Management
元請会社と下請会社の信頼関係を強くするには?【コンプライアンス入門 第8回】
現場で役立つ!
2024.08.20
第8回 下請負代金の支払い
元請会社と下請会社とのトラブル
元請会社と下請会社のトラブルの大半は下請代金の支払い問題だ。支払いについて建設業法の規定を順守しなければ、訴訟にならないまでも、信頼関係が欠落する原因となる。
今回は下請負代金の支払いについて解説する。
下請負代金の適正な支払い
下請負代金の支払い方法について、建設業法には5つの規定がある。それぞれのポイントを理解し、適切な支払い管理システムを構築することが大切だ。
①注文者から支払いを受けたら、下請負人にも1カ月以内に支払う
注文者から下請負代金の出来形部分に対する支払い、または工事完成後に支払いを受けたときは、その支払い対象となった工事を施行した下請負人に対して、相当する下請負代金を1カ月以内に、なおかつ、できる限り短期間のうちに支払わなければならない。
この規定は元請負人だけでなく、一次および二次下請負人が、それぞれの下請負人に支払うときにも守らなければならない(図1)。
②下請負代金の支払いは、できる限り現金払い
請負代金の支払いは、できる限り現金払いとする。現金払いと手形払いを併用する場合であっても、支払い代金に占める現金比率を高めるとともに、少なくとも労務費相当分は現金払いとする。以下に下請負代金の支払いについてポイントをまとめる。
・下請負代金の支払いは、できる限り現金払いとしなければならない。
・手形で支払う場合、現金化にかかる割引料などのコストは下請事業者の負担とならないようにすること。
・手形期間は60日以内とすること(建設業法令遵守ガイドラインでは60日以内、建設業法では120日以内)。
③前払い金の支払いを受けたら、下請負人にも前払い金を支払う
元請負人は前払い金の支払いを受けたときは、下請負人に対して資材の購入、労働者の募集、その他の建設工事の着手に必要な費用を前払い金として支払うように配慮しなければならない。
④完成検査は、通知後、20日以内に実施する
下請工事の完成を確認するための検査は、下請負人から工事完成の通知を受けた日から20日以内で、できる限り短い期間内に実施する。さらに、完成検査後に下請負人が工事の目的物の引き渡しを申し出たときは、直ちに引き渡しを受けなければならない(図2)。
なお、下請負人からの「工事完成の通知」や「引き渡しの申し出」は口頭でもいいが、のちのちの紛争を避けるため、書面で行うほうがいい。
⑤特定建設業者は引き渡し申し出の日から50日以内に支払う
特定建設業者は注文者から支払いを受けたか否かにかかわらず、工事完成の検査後、下請負人から工事目的物の引き渡しの申し出があったときは、申し出の日から50日以内に下請負代金を支払わなければならない。
ただし、下請負人が特定建設業者、または資本金額が4000万円以上の法人の場合、本規定は適用しない。
特定建設業者は、元請としての義務①と特定建設業者の義務⑤の両方を負う。そのため、出来形払いや完成払いを受けた日から1カ月以内か、引き渡しの申し出から50日以内の支払い期日(支払い期日の定めがなければ引き渡し申し出の日)の、いずれか早いほうで支払わなければならない。
①~⑤をまとめたものを図3に示す。
下請負代金の支払いについてのQ&A
ここで「下請負代金の支払い」に関連する項目をQ&A方式でまとめてみた。どれくらい理解しているか、しっかり確認してほしい。
問題
Q1
特定建設業者は、発注者より出来形払いを受けたときから1カ月以内であれば、特定建設業者である下請負人から引き渡しの申し出があった日から50日を超えた日に、工事金額を支払っても問題はない。
Q2
元請業者は下請業者に対して、いかなるときも前払い金を支払わないといけない。
Q3
下請負代金の支払いは、できる限り現金払いとしなければならない。また、手形で支払う場合においても、手形期間は150日以内が望ましい。
Q4
元請負人は、下請負人から工事完成の通知を受けた日から10日以内に検査を行わなければならない。
解答
A1 ○
下請負人から引き渡しの申し出があった日から50日以内に支払わないといけない。ただし、特定建設業者または資本金額が4000万円以上の法人であれば、50日を超えて支払ってもいい。
A2 ×
前払い金の支払いは発注者より前払い金の支払いを受けたときに限る。
A3 ×
手形期間は60日以内とする(建設業法令遵守ガイドラインでは60日以内、建設業法では120日以内)。
A4 ×
工事完成の通知を受けた日から20日以内に実施しなければならない。
プロフィール
降籏 達生(ふるはた・たつお)
兵庫県出身。映画「黒部の太陽」で建設業に魅せられ、大学卒業後、大手ゼネコンに入社。社会インフラの工事に従事する。1995年には阪神・淡路大震災で故郷の崩壊に直面し、建設業界の変革を目指して独立。1998年にハタ コンサルタント株式会社を設立し、代表として建設業界の革新、技術者の育成、建設会社の業績アップに情熱を注いでいる。