Management
下請法を理解する【コンプライアンス入門 第13回】
現場で役立つ!
2025.03.12
第13回
親事業者の義務
親事業者(元請会社)の義務
建設業者が建設工事を他社に下請負させる場合は建設業法が適用されるが、委託する業務内容によっては下請法が適用されることがある。今回は、親事業者(元請会社)が負う4つの義務について解説する。
まず、下請法の適用範囲を整理する。
建設業者が、他の建設業者に建設工事を再委託する場合には、下請法は適用されず、建設業法が適用される。下請法が適用されるのは以下の場合である。
①建設業者が業として販売する建設資材の製造を他の事業者に委託すること(製造委託に該当する)
②業として提供する建築物の設計や内装設計を他の事業者に委託すること(情報成果物作成委託に該当する)
親事業者が負う義務は次の4つがある。
①親事業者より下請事業者への書面交付義務
②親事業者の書類作成、保存義務
③支払い期日を決める義務
④遅延利息の支払い義務
親事業者より下請事業者への書面交付義務
親事業者は、下請事業者に業務を委託する場合、書面を下請事業者に交付しなければならない。これを3条書面という(図1)。
(1)書面に記載すべき事項(3条書面)
書面に記載すべき事項を以下に示す。
①親事業者および下請事業者の名称
②製造委託、修理委託、情報成果物作成委託または役務提供委託した日
③下請事業者の給付の内容
④下請事業者の給付を受領する期日
⑤下請事業者の給付を受領する場所
⑥下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
⑦下請代金の額
⑧下請代金の支払い期日
⑨手形を交付する場合、手形の金額と手形の満期
⑩一括決済方式で支払う場合は金融機関名、貸つけまたは支払い可能金額、親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
⑪電子記録債権で支払う場合は電子記録債権の額および電子記録債権の満期日
⑫原材料等を有償支給する場合は品名、数量、対価、引き渡しの期日、決済期日、決済方法
(2)違反事例
発生しやすい違反事例を以下に示す。
・発注内容が常に同じであり、また、単価および支払い条件を事前に話し合いで決めていることから、発注は電話で行っていて発注時に3条書面を交付していない。
・3条書面に下請代金の額、納期および納入場所を記載していない。
・下請事業者から提出される見積書の金額で発注したため、3条書面に下請代金を記載していない。
・3条書面を交付せず、口頭で発注している。

親事業者の書類作成、保存義務
親事業者は下請事業者に業務を委託した場合、記録を作成し、保存しなければならない。これを5条書面という(図2)。
(1)記載すべき事項(5条書面)
①下請事業者の名称
②製造委託、修理委託、情報成果物作成委託または役務提供委託した日
③下請事業者の給付の内容
④下請事業者の給付を受領する期日
⑤下請事業者から受領した給付の内容および給付を受領した日
⑥下請事業者の給付の内容について検査をした場合は検査を完了した期日、検査の結果および検査に合格しなかった給付の取り扱い
⑦下請事業者の給付の内容について、変更またはやり直しをさせた場合は内容および理由
⑧下請代金の額
⑨下請代金の支払い期日
⑩下請代金の額に変更があった場合は増減額および理由
⑪支払った下請代金の額、支払った日および支払い手段
⑫下請代金の支払いについて手形を交付した場合は手形の金額、手形を交付した日および手形の満期
⑬一括決済方式で支払うこととした場合は金融機関から貸つけまたは支払いを受けることができる額および期間の始期、ならびに親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を金融機関へ支払った期日
⑭電子記録債権で支払うこととした場合は下請事業者が下請代金の支払いを受けることができる期間の始期および電子記録債権の満期日
⑮原材料等を有償支給した場合は品名、数量、対価、引き渡しの期日、決済期日および決済方法
⑯下請代金の一部を支払いまたは原材料等の対価を控除した場合は、その後の下請代金の残額
⑰遅延利息を支払った場合は遅延利息の額および遅延利息を支払った期日
(2)違反事例
発生しやすい違反事例を以下に示す。
・下請事業者の給付の内容など、必要記載事項を記載した書類を保存していない。
・下請事業者に交付した3条書面の写しを、5条書面の一部として1年間は保存したあと、破棄していた(書類の保管期間は支払い代金の額の支払いを記載してから2年間)。

支払い期日を決める義務
親事業者から下請事業者へ支払う代金は、あらかじめ支払い期日を定めなければならない。
(1)支払い期日
支払い期日は以下で定められる。
・親事業者が下請事業者から提供を受けた日から起算して60日の期間内、なおかつ、できる限り短い期間内において支払い期日を定めなければならない。
・下請代金の支払い期日が定められなかったときは、提供後、60日を経過した日の前日が下請代金の支払い期日とする。
(2)違反事例
よく発生する違反事例を以下に示す。
・下請事業者が物品製造後、親事業者以外の業者に納入し、その後、親事業者に提供された場合、親事業者に提供された日を受領日とした(発注書面で親事業者以外の業者への納入を指示している場合でも、その日を受領日としなければならない)。
遅延利息の支払い義務
親事業者は支払い代金の支払い期日までに支払い代金を払わなかった場合、提供後、60日を経過した日から支払いをする日までの期間に相当する遅延利息を支払わなければならない。
プロフィール
降籏 達生(ふるはた・たつお)
兵庫県出身。映画「黒部の太陽」で建設業に魅せられ、大学卒業後、大手ゼネコンに入社。社会インフラの工事に従事する。1995年には阪神・淡路大震災で故郷の崩壊に直面し、建設業界の変革を目指して独立。1998年にハタ コンサルタント株式会社を設立し、代表として建設業界の革新、技術者の育成、建設会社の業績アップに情熱を注いでいる。
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