Management
建設現場のリスクアセスメントと危機管理【コンプライアンス入門①】
現場で役立つ!
2023.07.20
第1回 リスクアセスメントと危機管理①
建設現場の「コンプライアンス」とは?
建設工事の現場で起こる想定外のことについて、工事管理者はコンプライアンスを意識しながらリスクに対処しなければならない。
そこで、現場に必要な「コンプライアンス」にフォーカスしようということで始まった本連載。第1回は工事会社や工事現場で起こりがちな「リスク」について、発生のメカニズムを考えてみる。
「リスクマネジメント」と「危機管理」
「危機管理」というのは、すでに発生した事故や事件に対して、そこから受けるダメージを最小限に抑えようというものである。だから、大災害や大事故、大震災の直後に「危機管理室」や「危機管理体制」などと呼ばれるものが設置される。
これに対して「リスクマネジメント」は、これから起きるかもしれない危険に、事前に対応しておこうという行動である。
道路が渋滞して工事現場に遅刻することがないように、電車を利用するのは「リスクマネジメント」である。
一方、道路が渋滞して打ち合わせに遅れることを想定し、別の交通手段や迂回路を調べておくことを「危機管理」という(図1)。
リスクマネジメントは事故を未然に防いだり、事故の影響を最小限にするという効果がある一方、これを活用することで積極的に業績を上げることもできる。
例えば、建設会社が入札前に技術提案書を提出し、それを評価して、発注する建設会社を決めるという入札制度がある。ある案件で入札に応じたのは2つの会社。一方は有名な大手建設会社Aで、もう一方は中小の建設会社Bだった。
入札の結果はB社の勝利に終わった。理由は建設物完成後のリスクマネジメントシステムが設計に含められ、その内容が優れていたためだ。
建設物が原因で事故が起こった場合、施主は大きなダメージを受けることになる。それを考えて提案したB社は、リスクマネジメントの採用で工事を受注することができたのである。
ハザード、リスクから損失に至るメカニズム
リスクを見極めるには、その背後にあるハザード(危険の原因)を知らなくてはならない。ハザードとはリスクの原因である。
例えば、工事現場に段差があったとしよう。この段差がハザードだ。段差の存在が事前にわかっていれば、だれもつまずくことはない。ハザードの存在がわかれば、リスクを管理できるのである。
しかし、ハザード(段差)があることに気づかなければ大きなリスク(事故)が発生し、さらに場合によっては負傷という危機を迎え、本人は休業、会社は慰謝料を支払うという損失を負ってしまう。
ハザードがみえていないと、それだけ損失を受けるリスクが高くなり、大きなダメージへとつながる危険性が高くなるのである(図2)。
ハザードからリスクが発生するメカニズムが「ハインリッヒの法則」である。
これはアメリカの保険事故調査員・ハインリッヒが実証したもので、もともとは労働災害の統計を分析して導き出した法則である(図3)。
これによると、1件の重大な事件・事故の背景には29件の事件・事故があり、事故には至らないものの「ヒヤリ・ハット」した事象が300件あるという。そして、その「ヒヤリ・ハット」というミスにつながる環境、要因が数千というハザードなのである。
これらのハザードのなかに「コンプライアンス」に対するものが多く含まれる。法律の知識がないとハザードがみえていないため、リスク、危機、そして、損失へと発展してしまう確率が高くなるのである。
プロフィール
降籏 達生(ふるはた・たつお)
兵庫県出身。映画「黒部の太陽」で建設業に魅せられ、大学卒業後、大手ゼネコンに入社。社会インフラの工事に従事する。1995年には阪神・淡路大震災で故郷の崩壊に直面し、建設業界の変革を目指して独立。1998年にハタ コンサルタント株式会社を設立し、代表として建設業界の革新、技術者の育成、建設会社の業績アップに情熱を注いでいる。