Column
「244/大リーグボール作戦」で工業高校改革に待った!【電気教育、言いたい放題7】
電気科教員の「はてしないグチ」
2024.04.25
第7言「そして、名スパイは生まれた」
工業高校改革と称して「1年生は一括募集で共通履修を行う。2年生から各科の専門履修に入る」と行政から発表があった。その趣旨は「リメディアル教育」だ。
電験三種の認定基準は維持されるのか、さらには電験三種の指導は可能か、そこかしこから不安のタネが芽吹くことになった。何とか認定基準は継続となって安心したのもつかの間、今度はカリキュラムに不安が残った。
1年生の共通履修の期間に、何とか電気基礎(現在の電気回路)を履修させたい。従来の3年間の専門履修を2年に短縮して、満足のいく工業技術基礎&実習が行えるのか、その点が非常に不安だった。2年生から専門履修が始まるっていうんじゃ、電験三種の指導は厳しくなるばかりなのだ。
教科主任会という会議で、その旨は何度も主張した。しかし、ほかの学科からは反対意見ばかり……。
「機械系でも昔から電気一般という科目があったんじゃない?」「ロボット製作でも必要な知識でしょう?」と声高に主張しても、「リメディアル教育がしたい」「電気基礎の難しい科目は必要ない」の一点張りだ。議論が進むはずがない。
電子科は同じ考えだろうと助けを求めたが、まったく発言ナシの空気感……。電気科だけがカラカラという音が聞こえるくらいカラ回りをしている始末であった。
そのような重苦しい会議が何回か続いた、ある朝、教務主任が脅迫かと思うような声色で「電気基礎を1年生に入れない原案を職員会議に出すぞ!」と内線をかけてきた。
すぐに切れた電話をみつめ、しばし呆然。しょうがない、それなら直訴するしかない。
校長室に向かいながら「電気教育百年の計を、なんと心得る。ここでオレが奮起しなければ、だれが言うか。処分するなら、したらいい。万が一のことがあったら、かあちゃん、ごめん!」と覚悟を決め、「危険球により一発退場」を受け入れる心境で校長室のドアをノックした。
険悪な関係ながらも、互いにヒザを突き合わせて話をした。
電気科だけが関係してくる科目ではない。電子科でも機械系でも必要な科目だ。学校全体、さらには工業教育の質に関係してくる問題だ。そう主張した。主張できた。
しっかり苦言を頂戴したが、何とか合意に達した。勝利を、収めた……。
職員室へ凱旋した瞬間、244の内線電話が鳴った。教務主任からだ。さっきとは、まるで違った声色で「何とか1年生で電気基礎を履修できるようにするから」との話。「オ~、サンキュー・ベリー・マッチ!」と返して電話を気持ちよく切った。大成功の直談判だ。後日、職員会議でも、その原案が無事に通ったのはいうまでもない。
会議後、お礼のために校長室へ行くと「委員会が了承するかわからんぞ!」とチクリ。腹のなかでは「ムダな抵抗やな~」と思いつつ、「いやぁ~、そこを上手にやっていただけるのが、校長先生の人徳のなせる業だと思います。ところで、名は体を表すという言葉がありますよね。校長先生のお名前を拝見すると、漢字には穏やかに一件落着させる意味があります。いやぁ~、校長先生にふさわしい!」と、持っている太鼓をドンドコドンドコ打ちまくった。校長先生は困った顔で「おじいさんがつけてくれた名前だ」と……。「すみません、そこまでは存じ上げていませんでした」と言って、そそくさと校長室から脱出した。
校長先生への裏工作は、往年のスポ根アニメ『巨人の星』で、主人公が投げていた魔球「大リーグボール1号」と「大リーグボール3号」の合わせ技、悪役レスラーばりに反則スレスレだった。日ごろから人間関係、信頼関係を築いていたことが幸いしたが、まさに綱渡り状態で冷や汗モノだった。校長先生の決断には、いまだに猛烈に感動している。

プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。
電気教育、言いたい放題 記事一覧
- 【第1回】「鉄は熱いうちに打て」や!
- 【第2回】「電気工事界のブラックジャック、降臨!」
- 【第3回】「破顔の秘孔をついた。オマエたちはもう、笑わずにはいられない」
- 【第4回】「電験三種認定校をレッドリストに!」
- 【第5回】「工業教育改革にドロップキック!」
- 【第6回】「三千六百五十歩のマーチ」
- 【第7回】「244/大リーグボール作戦」で工業高校改革に待った!
- 【第8回】「□いアタマを○くする」作戦で工業教育改革に喝!
- 【第9回】工業の「本質」の追求に、燃え上がれ工業教員!
- 【第10回】「答えのない答え」は、ホントにみつかるのか?
- 【第11回】「働き方」より「働きがい」の改革を!
- 【第12回】「パワハラ」「いじめ」の群雄割拠
- 【第13回】「キミの胸に書類、書類come back to you」