Column
第2言「電気工事界のブラックジャック、降臨!」【電気教育、言いたい放題】
電気科教員の「はてしないグチ」
2023.08.23
第2言「電気工事界のブラックジャック、降臨!」
電気科の教員をやりながら、国際審判員の体育の先生とバレーボールを指導してきた。選手への技術指導はもちろん、審判の技術指導を受けて、練習試合から経験を重ねていった。
最初からうまくいくはずもなく、「礼儀正しい高校生」と評判のある選手からでも露骨にイヤな顔をされた。悔しさをグッとこらえて、目の前の判定を全力でやるのみだった。
真摯に取り組んでいると報われるのがスポーツだ。チームも全国大会の出場に恵まれ、筆者も公認審判員で全国大会へ派遣された。
これは電気の授業でも同じだ。
「次は、あんな顔をさせないぞ」の繰り返しだった。
真摯に取り組んだが、教員稼業は現在に至る……。
「判定に自信があってもなくても、大きく、ゆっくり、ハンドシグナルを出すように」
審判の技術指導を受けているときに教えられた言葉だ。若いころは、これを電気の授業にも応用した。授業内容に自信がある、なしで声の張り具合やチョークの筆圧を変えた。非常に貴重な教えとなって筆者の心にしみ込んでいた。
そういえば、筆者が高校2~3年のときに印象深い先生がいた。音響メーカーの設計職の出身で「昔の生徒はオマエたちより賢かった。でも、このくらいの知識は身につけてほしいって考えてつくった定期試験で、平均点が20点しかなかった。オマエたちより、ずっと賢かった生徒がやぞ」と、いまでは完全な問題発言を平然とする先生だ。
定期試験のあと、結果を学校に提出すると、校長から呼び出されて「キミは生徒の実態をつかんどらん」と長時間の説教をくらったという。
「あの校長、腹立つわ」と授業で何回も聞かされた。よっぽど腹が立ったのだろう。
普段は「オレより偉いものはおらん」のオーラがにじみ出ている嫌味な先生だった。2年生で交流の電気理論、3年生で電子工学を担当し、授業や定期試験はヘトヘトになった。そのため、同級生の進路で電子工学方面は皆無であった。電子工学を、苦手を通り越し、キライにさせたのだ。
さて、その先生で忘れもしないできごとがあった。
2年生の放課後、第二種電気工事士の筆記試験の補習を受けていたときのことだ。その先生が担当の日には、なぜかヘラヘラした態度で「ワシは電気工事を知らん。テキストがあるから、ここからここまでのページを読んどけよ」と指導は終了。あの電子工学への熱意を持っている先生と同一人物か? と思わず耳を疑った。
それで完全にヤル気を失い、第二種電気工事士は不合格のまま。
いまでは「電気工事界のブラックジャックや!」を連呼している。
人間、だれもが得意、不得意はある。得意分野だからっておごる必要もなく、不得意だからって卑下する必要もない。
授業内容に自信があれば態度や声が大きくなり、審判のハンドシグナルもビシッと素早く出す。逆に、自身がないときはオロオロとした態度で声も小さくなり、ハンドシグナルも緊張しながらモソモソと出す。
生徒も先生も、そのギャップで不信感が生じてしまう。そうならないように、専門分野に乏しい若いころは授業の下調べに徹夜をしたことが何度もあった。すべては自信をつけるために、だ。
それでも、土曜日にナイター中継をみて、監督やコーチ、選手がアンパイアに食ってかかるシーンをみると「明日の試合の審判は、こんなふうになったらイヤやなぁ~」と何度思ったことか……。
プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。