Column
第5言「工業教育改革にドロップキック!」【電気教育、言いたい放題】
電気科教員の「はてしないグチ」
2024.01.29
第5言「工業教育改革にドロップキック!」
教育の重要な役割は歴史、文学、芸術、科学など、先人たちが長年にわたって築き上げてきた知識や知恵を次の世代に伝承することとすれば、工業教育では「科学技術などの伝達と発展ではないだろうか」と考えている。ある程度は保守的にならざるを得ない。
ところが、だ。工業教育改革と称して学習指導要領の改訂よりも短い期間で改革があった。しかも、数回……。行政からの工業改革の哲学や意図は、なかなかみえてこない。百歩譲って「少子化対策」や「予算削減」の程度だ。経済的な視点や行政の都合か? と疑問を抱いてしまう。特に、学習指導要領なんか、先に改革を行った都道府県の模倣ではと勘繰ってしまうアリサマである。
新しい工業教育改革により、各学科の新テーマについては現場に丸投げしてくる。もちろん「改革するわけだから、以前と同じテーマではいけません」と牽制球を投げることも忘れない(タイミングをみて盗塁してしまおうか。ホントに……)。
この「いけません」ということを誰が、どこで決めたのか。それなら議事録を公開してくれとも言いたい。現場は工業教育の改革を求めていないのに、それを無視して改革を急ぐのはナゼ? 改革後の成果が出ても出なくても、生徒たちを実験台にしているのでは、誰のための改革なのか? と、いろいろいろいろ考えてしまう。
現場では電気科の電験三種の認定基準が毎回のようにやり玉に挙げられた。これを堅持することが苦労の連続だった。行政からは「そもそも電験三種の認定基準を必要とお考えですか?」と的外れな質問が降ってくる。本来は電気主任技術者の養成のために電気教育がスタートしたのだ。
ほかの学科から「なんで、そんなに認定基準にこだわるのか?」と疑惑の目を向けられ、電子科からは「こちらは日進月歩なのに、電気科は旧態依然で何も変わらんのか?」と胸元をえぐる内角攻めのような激しい質問を幾度となく浴びた(すべて流し打ちでヒットにしてやろうか。ホントに……)。
「少しは電気科の身になって考えろよ」と内心で悪態をつきつつ、主任技術者の認定基準の大切さを理解してもらおうと友好的に説明している。ああ、骨が折れる!
電験三種は現役の高校生がチャレンジする最高峰の資格だ。在学中の受験はもちろん、卒業生が申請により三種認定を受けるケースを想定し、20年から30年先を考えた認定規定でもあるのだ。小手先の学習指導要領や工業教育改革よりも長期的なビジョンでみていると声高にアピールしたい。
この認定校というカンバンにより企業から求人をいただけているし、つまりは、産業界も背負っているといっても過言ではない! と考えてきた。ようするに「宮内庁御用達、王室御用達、ISO9001といったお墨つきを、すべて持っているのだ」と話をすると、電気業界の企業からは「そうだ! そうだ!」とのかけ声が返ってくる。もちろん、内心ではホッとしている。
学校内では「電験三種は難易度が高いが、在学中に必要な単位を修めて、就職して高圧の仕事に従事して申請すれば、電験三種の取得は可能だ」と話している。そうすると「じゃあ、ノンキャリアがキャリアに大化けするようなイメージの制度か」とトンチの利いた答えを返してくる強者の生徒もいる。「うまい! 座布団、3枚!」と思わず口を衝いて出てしまう始末……。おあとがよろしいようで。

プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。
電気教育、言いたい放題 記事一覧
- 【第1回】「鉄は熱いうちに打て」や!
- 【第2回】「電気工事界のブラックジャック、降臨!」
- 【第3回】「破顔の秘孔をついた。オマエたちはもう、笑わずにはいられない」
- 【第4回】「電験三種認定校をレッドリストに!」
- 【第5回】「工業教育改革にドロップキック!」
- 【第6回】「三千六百五十歩のマーチ」
- 【第7回】「244/大リーグボール作戦」で工業高校改革に待った!
- 【第8回】「□いアタマを○くする」作戦で工業教育改革に喝!
- 【第9回】工業の「本質」の追求に、燃え上がれ工業教員!
- 【第10回】「答えのない答え」は、ホントにみつかるのか?
- 【第11回】「働き方」より「働きがい」の改革を!
- 【第12回】「パワハラ」「いじめ」の群雄割拠
- 【第13回】「キミの胸に書類、書類come back to you」