Column
工業の「本質」の追求に、燃え上がれ工業教員!【電気教育、言いたい放題9】
電気科教員の「はてしないグチ」
2024.09.02
第9言「アレ・プロフェスール!」
「答えのない答えをみつけましょう」
海外企業の入社試験のような、トンチの利いた探求学習が、いま、教育界では主流なのだろうか……。筆者の経験では「○○をイノベーションしよう!」と雲をつかむようなテーマが出題されても、生徒にとっては基礎知識、予備知識がない状態でグループディスカッションをするわけだから、ただただ沈黙が続くだけ。さらに、アクティブラーニングのため「教師はアドバスをしないように!」と言われる始末。いたずらに無意味な時間を費やすばかりであった。
探求学習の第一人者といわれている方の記事によると「探求とは探す、みつけること」だそうだ。理科の場合、さまざまな自然現象に対して答えを求めようとして、求められなくても考えが深まることになれば「OK!」なのだそうだ。
理科は探求でいいが、工業では探求を昇華してモノづくりに至るのでは、と考える。現象から公式や定理を導き、理科から応用理科、さらには工学へ。モノづくり、製造、製作につながっているのではないか。
工業は企画、研究、設計、デザイン、試作、製造、検査、メンテナンスと一連の「つながり」がある。ここでの探求は企画、研究、設計、デザインの部分にあたり、そのほかは技術、技能で企画、設計に応じた製造、製作を行う「目的達成」ではないかと考える。
企画、設計などは多種多様なアイデアがあることは当然だが、期日を守り、使い勝手のいいもの、グッドデザインの製品をつくることが工業という学問の本質ではないか、と考えている。いつもいつも考えている。
昔のことを用いると、例えば「雷は電気だ!」ということをみつける。これは理科でいうところの「探求の世界」に該当するわけだが、これが電気になると、さらに避雷針や接地工事などの雷を避ける保安、保全という「目的達成」のことを考えなければならない。
そういえば、そんなことを熱く語っていると「発電所より、雷の電気を蓄えたほうがいいんじゃない?」とちゃかしてくる生徒が過去にはいたっけ。
それはさておき。極めて一部の活気のある高校での取り組みを世間一般に浸透させて、私利私欲のためなのか、現場の生の声を無視して探求学習を実施している。学習指導要領などの文章をこねくり回し、行政の都合のいいように解釈、変更していったのではないかと勘繰りたくなる。
このようなことを考えていると、かつてTVで一世を風靡した、一流料理人同士が対決する番組でのエピソードを思い出す。
ある回で、高学歴の若い女性タレントが審査員で出演していた。審査のときに聞きかじったというか、つけ焼き刃というか、にわか知識を披露したという。そして、レギュラーの一流料理人より挑戦者に軍配を上げた。
番組収録後、その料理人は「小娘に料理の神髄なんかわかってたまるか!」と彼女に対してキレた、なんてウワサ話があったとか、なかったとか……。
これを探求学習の話にあてはめると、女性タレントが「中央省庁や行政の役人」で、一流の料理人は「現場で経験を積んだ工業高校の教員」といったところだろう。特に深い意味はないが、長く工業高校で教員を続けていると、一流料理人の気持ちがよぉぉぉぉくわかるできごとは多々ある。
繰り返す。特に深い意味はない。
プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。