Column
第3言「破顔の秘孔をついた。オマエたちはもう、笑わずにはいられない」【電気教育、言いたい放題】
電気科教員の「はてしないグチ」
2023.10.06
第3言「破顔の秘孔をついた。オマエたちはもう、笑わずにはいられない」
工業高校の学校設定科目に「キャリア教育」がある。教科書はなく、「進路指導につながれば……」という主旨のようだ。
学校や担当者によって内容は異なる。年配の先生ならば経験談を含めて授業展開はスムーズなのだが、若手の先生はなかなか厳しいと思う。これが問題点なのかもしれない。
筆者が29年勤務した工業高校から次の工業高校に転勤し、新入生の担任を持ったときのことだ。新年度が始まって数日たったとき、急に時間割の変更でキャリア教育が入った。準備もしていないから、副担任の先生は「キャリアの時間、どうしましょうか?」と心配して声をかけてきた。私はというと「まあ、何とか50分、話をしましょう」と軽い気持ちで授業に臨んだ。
さあ、授業が始まった。
筆者「なんでキャリア教育が必要だと思う?」
生徒「???」
筆者「学校の教師の働きかけは漢方薬みたいなものだ。みんなが高校卒業して10年くらいは立派な活躍を期待し、そのあとは自ら歩んでほしいと願っている。そのための勉強だ」
生徒「ふむふむ」
筆者「みんな、10年後はどうなっているかな? 個人差はあっても結婚適齢期だろうな。例えば、結婚資金に約300万円、子どもの出産に約60万円は必要な時代だ。その資金をどうやって稼ぐ? フリーターか? 派遣社員か? やはり、安定した生活が望ましいから、学校が紹介した企業に就職し、正社員として稼ぎたいよな」
これで全員が納得する。
そして、こんな逸話を続ける。
プロ野球の往年の名捕手は、守備でピンチになったとき、打者に「このピッチャーな、今度、子どもが生まれるんだけど、病院代が払えんのや。堪忍して」とボソボソと話しかけた。それを聞いたバッターは「そうか、かわいそうやな……」と考えると、ど真ん中のストレートを「見逃し三振!」となった。「ヘヘッ、もうけた」という展開に……。
これで教室は爆笑に包まれた。この「ささやき戦術」は効果てきめんで、私も試したことがあると実体験へと話しを続ける。
バレーの審判仲間で、審判技術は上手だが、とても嫌味な先輩がいた。毎回のように「どこに目をつけて審判してたんや」「審判なんか辞めたらどうや」などなど、褒められたためしがない。地元で当時のVリーグが開催され、筆者は会場整理の役員で、先輩は副審で参加した。「一世一代の晴れ姿」だから彼女を観客に呼んでいた。
作戦タイムのときに副審の背後から「どこどこのだれだれさんてな、ほかの男とイチャイチャしてたのとちがうか?」と言うと、急に両肩を上げて固まってしまった。
プレーが再開しても、ネットタッチを見逃してチームから怒鳴りつけられる始末。
この話をすると、生徒は再び爆笑した。
生徒「先生、悪趣味やな!」
筆者「何を言う! 日頃の御礼を、熨斗紙をつけて返すのは立派なキャリア教育の一環だ」と言うと、教室は三度爆笑のうずに包まれた。
この話を含めて、急きょ時間割変更のキャリア教育は無事に50分間を乗り切った。呆気にとられた副担任の先生の顔は、いまでも忘れられない。
その後のクラス運営は非常に明るく、スムーズに運んだ。「だあれが生徒か先生か、みんなで漫談しているよ」と『めだかの学校』の雰囲気で楽しい1年間を送ることとなった。

プロフィール
今出川 裕樹(いまでがわ・ひろき)
1960年生まれ。大学卒業後、電気科の教員として工業高校に勤務。時事問題をぶっこみながらポイントを説明するユニークな授業を展開。その軽妙なトークは、爆笑のうずを巻き起こしつつ、内容を理解できるということで生徒に絶大な支持を得ている。50歳を前に電験三種に合格し、現在、二種に向けて鋭意勉強中。
電気教育、言いたい放題 記事一覧
- 【第1回】「鉄は熱いうちに打て」や!
- 【第2回】「電気工事界のブラックジャック、降臨!」
- 【第3回】「破顔の秘孔をついた。オマエたちはもう、笑わずにはいられない」
- 【第4回】「電験三種認定校をレッドリストに!」
- 【第5回】「工業教育改革にドロップキック!」
- 【第6回】「三千六百五十歩のマーチ」
- 【第7回】「244/大リーグボール作戦」で工業高校改革に待った!
- 【第8回】「□いアタマを○くする」作戦で工業教育改革に喝!
- 【第9回】工業の「本質」の追求に、燃え上がれ工業教員!
- 【第10回】「答えのない答え」は、ホントにみつかるのか?
- 【第11回】「働き方」より「働きがい」の改革を!
- 【第12回】「パワハラ」「いじめ」の群雄割拠
- 【第13回】「キミの胸に書類、書類come back to you」